甘く残酷な籠 1
腹部に手をあてるとぬるりと血に濡れる感触に眉をしかめた。
致命傷ではないが、軽傷というわけでもない。
「しくじった・・・」
仲間の手前平静を装っていたが、これは早めに暗部専門の医療施設に向かわなければまずそうだ。
しかし、夜陰に紛れ朦朧とした頭で足を進めた先は医療施設ではなく、何度も行きつ戻りつした道の先。
初めて上るアパートの階段。
震える手でサスケはドアを叩いた。
「サスケ!?」
深夜の訪問者に不審を抱きながら玄関のドアを開けたイルカは、自分の胸にどさりと倒れこんだかつての教え子を驚きと共に受け止めた。
サスケの脇腹に手を添えるとずるりと手が滑り、嗅ぎ慣れた血の匂いが鼻を掠める。
(怪我を!)
意識の無いサスケを玄関先へ引きずり上げ、イルカは手早く服を脱がしていく。
暗部服に手を掛ける際、イルカは微かに眉根を寄せた。
かつての教え子が今は暗部に所属し、裏の世界で想像も絶する過酷な任務についている。
忍として生きるからには能力のある者は、年齢に関係なくどんどん上部へ引っ張り上げられる。
甘い感傷だとわかっているが、それでも年端もいかない子供が自分とかけ離れた場所で命のやり取りをしていることにイルカは堪らなくなる。
汚れた服は玄関にとりあえず置いたまま、イルカは苦労してサスケを抱き上げ寝室へ運んだ。
アカデミーを卒業してから早五年。
サスケはイルカの身長をとっくに追い越して幼い面影を残しつつも青年と呼べるほどになっていた。
「大きく、なったよな」
感慨に耽りながらもイルカはてきぱきと手を動かす。
腹部の血を丁寧に拭うと出血はほとんど止まっていた。広範囲で傷が広がっているが深くは無い。
傷口に薬を含ませたガーゼを当てると包帯を使って固定していく。泥と汗にまみれた身体全体を丁寧に拭き清めていく。
泥で汚れた顔に濡れタオルをあてると、すぐに白皙の整った顔が現れる。
美しいと呼んで何ら差し支えない端整な顔立ちだった。
(これだけ綺麗な顔なら、引く手も数多だろうに・・・)
「どうして・・俺なんだ」
イルカは瞼にかかるサスケの前髪を軽く払ってやる。
すると、う・・・と声を漏らしながらサスケが目を開いた。
「・・・どれ位、寝ていた・・?」
「たいした時間じゃない。ほんの二時間くらいだ」
「悪い・・・迷惑かけた」
サスケは起き上がろうとして腹筋に力を入れたが、鈍い痛みに再び枕に頭を沈めた。
「今日は泊まっていけばいい。無理するな」
イルカはサスケの肩をつかみベッドに押し戻す。
自分の素肌に直に触れるイルカの手の熱さにサスケは眩暈を覚えた。
「あんた、何にも聞かないのか・・?」
「階級が上がれば、保守しなければならない機密事項も増える」
昔とは立場は逆転し、上忍に上がったサスケはイルカの上位者という事になる。
昔は教師と生徒だったかもしれないが、今は立場をわきまえている。
イルカは暗にそう示した。
「オレの部屋の場所なんて良くわかったな。倒れる前に辿り着けて良かった」
「あんたの部屋なんか・・昔から知ってた・・・・」
サスケの視線を受け止めきれずにイルカはそっと目を逸らせた。
「いっ・・つ・・」
急に腹を押さえたサスケに驚きイルカは慌てて傍による。
自分の身体の上に屈み込んだイルカの首にサスケは手を回し手荒く引き寄せる。
そのままイルカの唇を甘く噛み、素早く口付けた。
イルカはびくりと身体を揺らすが、身体を硬くしてサスケから開放されるのを待つ。
何度も繰り返された行為。
イルカは拒みもしないし、受け入れもしない。
身体を硬くしてやり過ごそうとするだけだ。