SWEET
カカシくーん、と。
のんびり間延びした声にカカシは足を止めて振り向く。
「先生、どうしたんですか」
「ああ、よかった。間に合った」
今は四代目火影となった、かつては自分の師であったその人は、茶色の紙袋を両手で大切そうに抱えている。
「あのね、これ。子供の日なんだってね、おめでとう」
ガサと押し付けられた袋をカカシは覗き込む。
中には雛あられと鮮やかな菱餅が入っていた。
どうしたものかと、一瞬躊躇うも、
「ありがとうございます」
カカシは丁寧に礼を述べた。
根本的に男子であるカカシがひな祭りを祝うのも間違い、日にち自体もかなり過ぎ去ってしまっている。
季節の行事とか、日常生活の常識を、致命的なまでに四代目は持ち合わせていない。
今日もどこかで半端に聞きかじって慌ててカカシのもとにやってきたのだろう。
何処から時期外れの雛あられと菱餅を調達したのか謎だが。
ニコニコと笑顔を見せながら四代目は去ろうとしないので、カカシはあられを数粒口に運ぶ。
ぽりぽりと食べて見せると、四代目の笑顔は心底嬉しそうにますます深くなった。
「美味しい?こういう子供の醍醐味は味わえる時に味わっておかないとね!」
当時カカシは既に上忍で、それ以前に6歳で中忍に昇格していたので、確かに一般の子供と比べると育った環境は特殊だったろう。
しかしそれは四代目とて同じ事で、自分と大差の無い幼少期を送ったはずだ。
でも、だからこそだろうか。
事ある毎に、四代目はカカシに菓子を持ってくる。
子供ならではの楽しみを少しでも味わって欲しいと思っているのだろう。
もう菓子などを与えられて喜ぶ年でもなくなっていたのだが、与えられる度にカカシは菓子を口に運ぶ。
本当は甘いものは苦手だったが、四代目が喜ぶならと菓子を口に含む。
子供を喜ばせようと真っ直ぐに心を配る大人と、その大人に気を使って喜ぶ振りをする子供と。
タダでさえ殺伐とした幼少時代だったのに、それに更にしょっぱさが加わるような思い出だ。
先生、あなたの方がよっぽど俺よりも真っ直ぐで純粋な心根を持っていましたね。
可愛くない子供で本当にすみませんでした。
そして、自分も上忍師になって。
またほんの少しだけ、師の気持ちがわかった気がする。
「よーし、お前らお疲れさん!これ持って帰れ」
今日の任務の依頼主から子供達へと、豆大福を預かっていた。
依頼主の奥さんの手作りで、まだ微かに暖かい。
「甘いものは嫌いだ」
「えー、今ダイエット中」
「俺、ケーキとかチョコの方がいいってば」
「・・・・・」
今時の子供といったら。
やっぱり俺が子供だった頃のほうが数倍可愛げがあったんじゃないだろうか。
いや、相手に気遣う事なく思った事を言う辺りが逆に子供らしいのだろうか。
しかし、作った相手に対して、作ってもらったものに対して、子供だろうがなんだろうが人として感謝をすべきだ。
むう、と無表情のままカカシはこの生意気な部下達になんといってやろうかと考え込んでいたが。
「あれ、もう任務終わったんですか」
カカシが三人と対峙していると、夕日を浴びて全身オレンジに染まったイルカが突如現れた。
受付業務が終わった所なのだろう。
「あ、豆大福ですねぇ。わあ、出来立てだ」
甘いものに目がないイルカはすぐにカカシが持っている重箱に気付いた。
「こいつらね、いらないって言うんですよ」
「え?もったいない。お前ら、作りたての大福なんて食べた事あるか?めったに食べられないぞ」
言うなりイルカは重箱から一つ大福を摘み上げると、はむ、と齧りついた。
柔らかい餅が面白いくらいに伸びる。
「美味い。餡も適度な甘さで」
さも美味そうにイルカは大福を一つ平らげた。
「あ、あたし、いっこだけ、もらおうかな」
「・・・・」
「なんか、美味そうだってば」
三人はそれぞれ重箱に手を伸ばす。
めでたく大福は完売した。
今度依頼主の奥さんにきちんと御礼を言うこと、と子供達に言い聞かせて今日は解散した。
「イルカ先生、助かりました。あの奥さん、子供達を喜ばせたいってたくさん土産に持たせてくれたんで・・・・」
「え、何が助かったですって?」
「・・・・・」
イルカは純粋に、そして単純に、大福が食べたかったらしい。
「いや・・・なんでもないです。美味かったですか?」
「ええ、物凄く」
満足げな笑みをイルカは浮かべる。
そこまで喜んでもらえたら、大福だって本望だろう。
「また、もらったら、イルカ先生の分取っておきますね」
喜んでくれると思うと、なんだってしてしまうんだ。
種類は違えど。
ああ、やっぱり。
真っ直ぐで純粋な心根を持った大人には敵わない。