ああ、会いたかった。
俺ね、ホントに会いたくて堪らなかった。
お願いだから。
「ゆめのあとさき」
『あれ・・・』
カカシが目覚めると、そこは無機質な自分の部屋で。
ボロボロの身体は硬い床の上に転がっていた。
とても、切ない夢を見たような気がする。
確かに手の中に捕まえたと思ったのに。
上忍師になってから回数は減ったものの、カカシは時々、里外の長期任務に駆りだされる。
今回は二週間。
(よく禁欲できたもんだよね、俺)
どうしても時間の経過と共に溜まってしまう欲求は、任務の間、自分の手で解放していた。
(まあ、あんな可愛い事言われたらねえ)
任務の間、浮気しないで下さい、なんて。
上気した顔で、黒曜石の瞳は涙に潤んでいて、きゅっとベストの端を握られたりなんかしたら。
任務へ出立する二週間前。
アカデミ−へ出勤前のイルカを堪らず押し倒して、声が枯れるまで鳴かせて、貪って。
出立ギリギリの時間になってようやくイルカを解放すると、とっくにイルカは意識を飛ばしていた。
後ろ髪引かれる思いで任務に出かけ、一ヶ月かかる任務を半分の日程で終わらせてきたのだ。
(まったく、自分のスタミナの無さが、恨めしい)
出来る事なら、任務から戻ったその足でイルカに会いに行きたかった。
任務で昂ぶった熱をイルカに埋め込んで、里に帰った実感を噛み締めたかったのに。
昨日はチャクラも切れかかっていて、自分の部屋に帰ってくるのが精一杯だった。
それでも硬い床の上とはいえ、身体を横たえて眠るのと野外で常に気を張りながら眠るのとでは回復のスピードが違う。
カカシの身体は、普通に身体を動かす分には問題ないほどにチャクラも回復していた。
窓の外を見ると日はとっぷりと暮れている。
この時間なら、イルカはアカデミーも、受付所の仕事も終えて部屋に帰っているかもしれない。
と、その時。
自分の部屋に近付いてくる愛しくてたまらない気配にカカシは気付いた。
『わ!びっくりしたっ!』
カカシが玄関のドアを勢いよく開けると、ドアの向こうには目を丸くしたイルカが立っていた。
『イルカ先生、会いに来てくれたの?』
今にも蕩けるような顔をして、カカシはイルカを正面から抱きすくめ首筋に鼻を埋める。
イルカからは、今日は外で演習でもあったのか太陽の匂いがした。
『あの、カカシさん。今日は・・』
『イルカ先生。会いたかった』
忙しなくイルカを掻き抱くカカシの手の動きは既に怪しくなっている。
その手は器用にイルカのベストのジッパーを降ろし、アンダーの中に潜り込み、イルカの吸い付くような肌を楽しみ始めている。
『あの、あの、カカシさん』
『会いたかった、イルカ先生』
イルカはあれよあれよと、玄関先から寝室までカカシに引き摺られて、気付けばカカシのベッドの上に仰向けになっている。
『カカシ先生、あの、今朝は・・』
イルカに万歳をさせる形で首からアンダーを引き抜いた瞬間、恍惚としていたカカシの表情は一瞬にして凍りついた。
イルカを抱いたのは二週間前。
それからは一度もその身体にカカシは触れてはいない。
それなのに、これはなんとした事だろう。
イルカの首筋には濃く花開いた赤い所有印が。
肩口には、くっきりと歯形が浮かんでいる。
ついさっきまでの高揚した気分は瞬く間に消え去り、カカシの中に勢いよく黒い感情が湧き起こってくる。
カカシの雰囲気が激変し、ビリと引き攣れるような殺気だったチャクラが寝室全体に張り詰めた。
『カ、カカシさん・・・?』
イルカは突然にカカシの威圧的なチャクラにあてられて困惑する。
『イルカ先生、これ、何?』
カカシはイルカの首筋に咲いた赤い花を爪の先でギリと引っかいた。
『いっ・・』
ビクリとイルカは身を竦ませる。
『ねえ、何これ。俺以外の誰にこの身体を触らせたの』
『ち・・・違・・』
言葉を紡ごうにもカカシの物凄い怒気にあてられ、イルカは息を吸う事すら覚束ない。
カカシはイルカの肩口にくっきりと残る歯形に指先の爪を食い込ませる。
『んんっ!』
痛みにイルカの顔は歪む。
『何好き勝手、体触らせてんの。それともイルカ先生から強請ったの』
暗闇に薄く開いたカカシの双眸には黒い焔が揺らめいている。
自分の不在をいい事に、誰がイルカを。
相手を殺すだけじゃ、足りない。
いっそのこと、そのすらりと伸びた手足を砕いて、体の自由を奪って、イルカをどこかに閉じ込めてしまおうか。
自分がいなければ、生きていけないように。
更にカカシの指先には力が入り、青く鬱血した歯型の上の皮膚が薄く裂け、血が滲んだ。
『こっ・・・』
『こ?』
イルカが勢いよく身体をしならせたと思ったら、思い切り蹴り上げられ不覚にもカカシはベッドから転げ落ちていた。
『この大馬鹿野郎ッッ!!!』
怒髪天を衝く、とはこういう事を言うのだろう。
威嚇する猫のように、イルカの解かれた艶やかな黒髪は逆立っている。
『あんたっ!!今朝俺に何したかすっかり忘れたのかっ!!』
『け・・今朝?』
イルカの勢いに飲まれて、カカシとイルカの形勢はすっかり逆転している。
『今朝っ!俺、カカシ先生に会いに来たんです!!』
『・・・お、覚えてない・・』
イルカの剣幕に簡単に押されながらカカシが答えると、イルカはがっくりと脱力した。
『今朝、俺のこと、抱こうとしたじゃないですか・・・・』
イルカの話によると、任務報告書が提出された事によってカカシの帰還を知ったイルカは様子を見に、アカデミーへ出勤する前にカカシの部屋に来たそうなのだ。
ベッドに辿りつく事も出来ずに床で寝こけるカカシをベッドへ運ぼうと抱き起こすと、カカシはいきなりイルカに襲い掛かったのだそうだ。
アンダーの襟ぐりをぐいと広げてきつく首筋に吸い付いてきたと思ったら、アンダーの上から肩口に思い切り歯を立ててくる。
瞬間、イルカの脳裏には二週間前の事が思い出された。
仕事にいく直前にカカシにメチャクチャに抱かれてその日は無断欠勤。
その後も三日間は腰が立たず、やはりアカデミーと受付は欠勤。
同僚には多大な迷惑をかけてしまったのだ。
一月の間に二度も迷惑をかけるわけにはいかない。
イルカは自分に齧り付いてくるカカシを思い切り突き飛ばした。
するとあっけなくカカシはゴツと鈍い音をさせて後頭部から床に沈みこんだ。
カカシはどうも半覚醒状態だったようだ。
出勤時間も迫っている。
だいぶ疲れきっている様子のカカシなら今日一日くらいは眠り込むだろう。
そんなこんなで、再び仰向けに床に寝こけるカカシを放置してイルカは仕事に向かい、そして仕事を終えて今に至る。
『いて・・・』
イルカがカカシの後頭部に指先で触れると立派なたんこぶが出来ていた。
『すみません。また無断欠勤するのは、どうしても避けたかったんです・・・』
イルカはカカシの四方八方を向く銀髪のくせっ毛をさらさらと梳いてやる。
カカシは仰向けに寝そべるイルカの裸の胸にぴったりと頬をくっつけて気持ちよさそうに目を瞑った。
『俺、自分にやきもち焼いたのね』
『そういうことですねぇ・・・』
『ごめんね。・・・恐かった?』
イルカはそれには答えずに、いつもの柔らかい笑顔を見せた。
『お帰りなさい。カカシさん』
イルカの胸の上で安心したように、カカシは長く、深く、息を吐く。
『俺ね、イルカ先生に会いたくて、堪らなかった』
『そうですか』
穏やかに上下するイルカの胸に揺られて、まだ疲れが拭い去れないカカシは抵抗しようにも睡魔に抗えず、やがて規則正しい寝息を漏らしだした。
ふ、とイルカの口の端には穏やかな笑みがこぼれる。
『俺もですよ』
イルカの言葉は、カカシの耳には届かなかったけれど。
満ち足りた気分で、二人は夢の中に、絡み合いながら落ちていった。
おしまい
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