ケダモノノ夜
1
「・・・思った以上に」
「うん、可愛いねぇ」
エロ上忍二人に舐めるように見つめられて俺は酷く居心地が悪い。
「や、やらしい目で見ないで下さい・・・」
「いいじゃねえか、減るもんじゃなし」
「ねえ?触ってるわけじゃなし」
まるで視姦でもされている様な気がして、両腕を隠すように身体に巻きつける。
自分の身体に見慣れない華奢な腕が巻きつくのを見て俺はますます心細くなった。
今俺が身に着けている衣類といえば薄手の浴衣一枚だ。
下着すら与えられずに、その浴衣の裾が信じられないくらいに短い。
そのまま視線を下ろせば、これまた見慣れない肉感的な太ももが剥き出しになっている。
知らず知らずに俺は内股になってしまう。
俺は今女体に変化しているのだ。
俺とカカシさんとゲンマさんの三人は今波の国に来ている。
スリーマンセルの任務中なのだ。
波の国の大商人の裏帳簿入手。これが今回の任務だ。
エリート上忍と特別上忍がツーマンセルを組むのならちょいちょいっと済ませられる任務なのだ。
それなのに。
任務の命を受けに受付所に来ていた上忍二人は綱手様を前にごね始めた。
「五代目、誰か可愛いサポート付けて下さいよー」
不機嫌な綱手様の前でしゃあしゃあとカカシさんは言ってのけた。
「確かに。カカシと二人っきりで一週間過ごすなんて、潤いがないっスね」
楊枝を上下に揺らしながら、ゲンマさんまで調子に乗る。
またかめんどくせえ、と顔面全体で綱手様は心情を吐露した。
この二人は組めば任務の成功率は物凄く高い。
しかし、任務に向かわせるまでのセッティングにはいつも受付所の面々は苦労させられる。
わがままなのだ。
忍のクセに任務先で温泉付きの宿を手配させたり、三日で済む任務で伽役のくの一を要請したり。
忍の能力は文句のつけようが無いが、人としては最低だ。所謂ろくでなしだ。
俺はこの二人に忍という言葉の意味を一度説いて聞かせてやりたい。
第一線で活躍する忍がこんな性格破綻者だなんて、希望に胸を膨らませて修行に励む生徒たちには口が裂けても言えない。
「どんな者ならいいんだ」
しぶしぶといった体で綱手様は目の前の二人に問いかける。
なにせ今回の任務は依頼主がこの二人を指名してきたのだ。
この依頼主はターゲットに敵対している商人で、物凄く金払いも良い。
里としても依頼主の意向を無視するわけには行かない。
外面だけは良いこのろくでなし二人を依頼主はひどく気に入っているのだ。
「そうですねぇ、可愛くて、頭が良くて、任務の邪魔にならなくて、スタイルも良くて、床上手な子かな?」
小首を可愛らしく傾げてカカシさんは綱手様に言う。
綱手様の俺側に面した口角がヒクッと痙攣する。俺はいつ綱手様がぶち切れるのか気が気じゃない。
綱手様がぶち切れた後のアフターフォローは受付所の中忍の仕事なのだ。
「ふ・・ふふ、ふ・・・」
これは綱手様の笑い声だ。怒りの余り断続的に不気味な声が痙攣の続く口の端から漏れている。
中忍風情の俺はハラハラと成り行きを見守る事しか出来ない。
「ふふ、ふ・・・丁度良い者がいるぞ」
「なーんだ、言ってみるもんすねー」
カカシさんもゲンマさんもハハハと朗らかに笑い声を立てる。
綱手様の断続的な不気味な笑い声も止まらない。
「イルカ、お前がサポートに付け」
シーンと、受付所が静まった。
何が起こったかわからず俺はあたりをきょろきょろと見回す。
俺と目が合った同僚達はもれなく視線をそらしてさっと下を向く。
「イルカ、お前がサポートに付け」
「ええっ?!」
さっきの科白は幻聴ではなかったらしい。
カカシさんとゲンマさんが要請していたのはあからさまに伽役のくの一だった。
何故もっさりした男の俺に白羽の矢が。
「え〜!イルカ先生、床上手なの?」
「人は見かけによらねえなぁ」
人の悪い笑みをニヤニヤと浮かべて、上忍二人はやっぱりそこに喰いついてきた。
ざっと、血の気が下がる。
「つ、綱手さまっ!」
「お前も一介の中忍だろう。自分の貞操は自分で守れ」
ばあんと綱手様は俺の背中を叩き、俺は受付所の机を飛び越えて前方にぶっ飛んだ。
は、と気が付くと。
俺の上半身はカカシさんに、下半身はゲンマさんに抱きとめられていた。
「はーい、サポート役いただきました〜vv」
「ほいじゃ、行ってくるっす」
俺は二人がかりで抱えられたまま受付所から連行されようとしている。
「毎回くの一をこやつらの贄に出すわけにもいかんのでな。イルカ、頼んだぞ」
「綱手さまーーっ!!」
綱手様の綺麗な笑顔が印象的だった。
俺の絶叫を跳ね返し、無常にも受付所のドアは閉まった。
波の国につくまでの三日間。
出発した頃は睡眠もろくに取ることも出来ず、自分の尻を死守するべく俺は常に神経を尖らせていた。
エロ上忍たちは事ある毎に俺の腰を抱き寄せたり尻タブを鷲掴んだりしてきて、その度に俺は口から心臓を吐き出しそうになった。
しかし、実際に伽を強要される事は全く無く。
二人はろくでなしだが両刀ではなかったようで俺は胸を撫で下ろした。
別に機密文書を携えているわけでもなくお気楽な道中、俺は二人の格好の暇つぶしにされた。
その後、俺一人だけ神経をかなりすり減らしてどうにか波の国に入った。
俺たちは適当に宿に入り、今後の作戦を練る。
「ターゲットはどうしようもないエロジジイで、夜な夜な少女買春してるんだって。だから俺らのうちの誰かが変化して寝所にもぐりこめば後は簡単でしょ」
さすがは腐っても上忍。
波の国に着いてすぐだと言うのに、あっという間に店の使用人を誑かしてカカシさんは情報を入手していた。
ふーん、と言うなりゲンマさんは印を組む。
ボフンと煙が立つ。
俺がゲホゲホと咳き込んでいると目の前には金髪の人形のような美少女が現れた。
でもその美少女は楊枝を咥えていて、目を眇めていたので余り胸がときめいたりはしない。
「これでどうよ。俺の美貌でジジイを惑わせてやるぜ」
いっひっひ、と金髪の美少女はおっさん臭く笑った。
対してカカシさんが無言で印を組んだ。
またボフンと眼前で立つ煙に咳き込んでいると煙の中から銀髪の目が覚めるような美少女が現れた。
「うふふ〜。これならジジイもいちころでしょ?」
カカシさんはもともとオネエ言葉なので女体化しても違和感が無い。
しかし、胸がやたらとでかい。きっとカカシさんはおっぱい星人だ。
ゲンマさんもそこは気になったようだ。
「お前、不自然に胸がでかいんだよ!ジジイは少女趣味なんだっつの。見ろ俺様のこの美乳を!!」
金髪美少女ゲンマさんは雄々しくアンダーシャツを脱ぎ捨てた。
プリンと、俺の目の前で手頃な大きさの乳房が揺れる。
俺だって健康な男だ。これはかなり目の毒だ。
助けを求めて銀髪美少女カカシさんを見ると、何とカカシさんまで勢いよくアンダーシャツを脱ぎ捨てた。
二人とも無駄に負けず嫌いだ。
俺の目の前にはメロン並の乳房が二つ揺れている。
「爆乳は男の浪漫でしょ!わかってないのはゲンマの方だよ!!」
いや、しかし。カカシさん、それはやりすぎだと俺も思います。
トップレスになり睨みあう美少女二人を俺はまあまあと宥める。
「それじゃあ俺が女衒役をしますから、ターゲットに気に入られた方が寝所に潜り込む事にしましょう」
日は暮れかかっていて、エロジジイがそろそろ今夜の相手を手配する時間なのだそうだ。
ほら時間が無いですよ、と俺に急かされて一時休戦しカカシさんとゲンマさんは自分を飾り立て始めた。
ゲンマさんは髪を結い上げて項を惜しげも無くさらし、カカシさんは髪を自然に垂らして見事な銀髪を腰まで流している。
二人とも色白で色男なのでそれをベースに女体化している今、その美貌はかなり目を引く。
これならどちらかはエロジジイの目に止まるだろう。
俺たちはかなり自信満々でその大店に売り込みに行ったのだが・・・。
「あー!そんな派手な娘はダメダメ!!」
裏口で俺達は腰が折れ曲がったばあさんに激しく駄目出しされた。
ゲンマさんとカカシさんはショックを隠し切れない。
なんだか二人の意識が任務遂行といよりもどちらがジジイの目に適うかという点にズレているっぽい所が気になるが。
それは置いておいて、どうやらこの人物が主人の閨の世話をしているらしい。
「旦那様の好みはね、黒髪の初物の娘だよ。出直してきな!」
ピシャンと俺たちの鼻先で裏の勝手口は閉まる。
作戦を練り直さねばと思ったが、俺の身体はぎくりと固まる。
背中に視線が突き刺さって痛い。
嫌な予感に襲われながらも、ギギギと俺は首を後ろに曲げる。
背後では・・・黒い笑みを湛えた金髪と銀髪の美少女が俺を見据えていたのだ。
「いや〜、イケてるよ。イルカ先生、カワイー」
「うん、こう。おぼこい感じがそそるよな」
「そ、そそられないで下さい!」
だいたいなんだ、この浴衣。
さっきは二人とも、襟を大きく抜いてはいたが普通に着物を着ていたじゃないか。
こんな、いかがわしい、風俗店の衣装のような浴衣を何で持ってるんだ。
股座がスースーして落ち着かない。前屈みになると尻が出そうになる。
モジモジと脚をすり合わせるオレをカカシさんとゲンマさんはニヤけた意地の悪い顔をして見ている。
くそっ。こんな任務、とっとと終わらせてやる。
結局俺はそんな恥かしい格好で往来を歩かされ、婆さんが門を守る先程の勝手口にたどり着いたのだった。