青春★狂想曲

ACT・1 『狙われたイルカ』






「もう〜。ゲンマ先輩も真面目に考えてくださいよ!」
湯治部副部長、二年のうみのイルカは思いっきり不機嫌そうに膨れっ面をしていた。
その隣で行儀悪く机の上に足を投げ出し、咥えた楊枝を上下に揺らしているのは湯治部部長、三年の不知火ゲンマだ。
今日は湯治部の年一回の一大イベント、温泉一泊旅行の計画立案のため話し合いが持たれているのであった。
だが、今日の部活動の出席率はすこぶる悪い。
だいたい部活といっても実体はあって無いような物で、温泉旅行の段になると何処からとも無く、顔も知らなかった幽霊部員達が集まってくるといった状態だった。
ようするに、生真面目なイルカの仕切りの元、温泉旅行だけは楽しみたいといういい加減な人間の集まりなのだ。
部長のゲンマですら今日の放課後、たまたまイルカに見つかり部室まで引きずられてきたのだった。
でもそんな部の実態にイマイチ気付いていないうみのイルカ。
周りが見えないほどに湯治が好きで好きで仕方が無い高校生なのだった。
唯一イルカの他に自主的に話し合いに参加しているのは湯治部書記、一年の月光ハヤテである。
てな訳で、たった三人で話し合いは進められていた。
「はぁ・・・それじゃあ草津でいいじゃねえか」
「草津ですね・・・ごほ」
ハヤテは無責任なゲンマの意見をいちいち記録する。
「草津は昨年行ったじゃないですか。せっかくだから別な所にいきたいです!」
「草津、無しなんですね」
「んじゃ、熱海」
「熱海ですね・・・」
「熱海なんて日帰りできるでしょう!」
「熱海、無しなんですね・・・ごほ」
「いいじゃねえか。どうせ、温泉に入れて酒飲めりゃ皆何処でもいいんだぜ?」
話し合いは平行線を辿り、終わる気配を見せない。
突然ゲンマが真剣な面持ちでイルカの両肩を掴んだ。
「イルカ、昨年の草津温泉旅行は楽しかったな。全てはお前の完璧で非の打ち所が無い計画のおかげだ。今年もお前の冴え渡る計画立案に大いに期待しているぞ!来年の湯治部を担うのはお前以外にありえない。お前は木の葉忍術学校高等部、湯治部の柱になれ!(@テニプリ)」
「・・・ゲンマ先輩!」
感動に打ち震えながらイルカは叫んだ。
「俺!期待に応えられるように頑張ります!」
「おう、まあ適当に手ぇ抜きながら頑張れや。じゃ、おつかれ」
「それでは私も、お先に失礼するんですね」
ちゃっかりゲンマに便乗してハヤテも部室を後にし、やたらとテンションが上がってしまったイルカだけがぽつんと部室に取り残された。
イルカは体よく雑務を押し付けられた事に全く気付いていない。
「ようし!頑張るぞ!」
どこまでも前向きというか、頭が足りないイルカなのであった。


ガラリと突然開いた部室の戸にイルカはビクン、と身体を揺らしてしまった。
「こらこらー、下校時間はとっくに過ぎてるよー」
「カカシ先生!すっ、すみません!」
驚きのあまり甲高い声を発してしまい、イルカは思わず赤面してしまった。
戸口からのっそりと顔を出したのは、教師のはたけカカシだった。
時計を見ると時刻は午後八時になろうとしていた。
温泉旅行の計画を考えるのに夢中になりすぎてしまった。
「あと戸締り確認はここだけなんだよね。さ、一緒に帰ろうねー」
戸口にゆったり体を預けてカカシはニコニコ笑っている。
「あ。は、はいっ!」
わたわたと慌ててイルカは帰り支度をはじめた。一挙一投足をカカシにじっと見つめられ、イルカはよけい焦ってしまった。
「お待たせしました」
部室から出てきて自分の横に立つイルカにニッコリ微笑みながらカカシは戸口に鍵をかける。
「あの・・・ひょっとして俺のせいで先生帰れなかったんですか?」
「んー?いいのいいの。俺は頑張り屋さん大好きだからっvイルカ君は部活動に熱心で偉いねー」
(優しい先生だなあ・・・)
イルカは単純に思った。
カカシは三年の体術、忍術を幅広く受け持っているので、二年のイルカとは直接接する事はない。
だが運動場でたまに見る授業中のカカシの流れるような体術の型を見て、イルカは何度か感嘆したことがある。
口布と額当てに隠された素顔は謎だが、話の分かる親しみ易い先生なのかもしれない・・・。
ぎゅるるる〜〜〜!
カカシと肩を並べて歩き始めた時、イルカの腹が盛大に鳴った。
瞬時にイルカの首筋まで赤みが差す。イルカは恥かしさのあまり泣きそうになってしまった。
「お腹空いてるの?」
「あ、あの・・はい」
もう時刻は八時を過ぎている。寮の夕飯の時間には今から帰っても間に合わないだろう。育ち盛りのイルカにとって一食を抜くのは拷問に等しい。
「イルカ君って、寮生だったよねえ。帰ったらご飯ある?」
「実は、もう夕飯の時間は終わっちゃったんです・・・」
イルカは切ない事実を再確認し、眉尻が悲しげにさがる。
「ふうん。じゃあ、うちに食べに来る?」
「えっ!!」
地獄に仏とはまさにこのこと!
空腹のあまり咄嗟に喜んだが、いや、いいのか?と考え直す。
「でも、こんな急に、迷惑じゃないですか?」
「あはは、気にしないで。気楽な独り身だしね。ね?遠慮なんかしないでうちにおいで」
「!!それじゃ、お言葉に甘えて!!」
ぱあっとイルカの顔に笑みがこぼれる。イルカに尻尾でもついていればぶんぶん振り回していたにちがいない。
「確か、寮の門限は10時だったよね?」
「はい!それまでに帰れば大丈夫です!」
「そっかー」
イルカは今晩食いっぱぐれずに済んだ事で有頂天になり、カカシの喉の奥から漏れ出したしのび笑いに気付かなかった・・・・。



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