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「お邪魔します」
「はい、どうぞー」
案内されたのは小奇麗なマンションだった。玄関から続く廊下の突き当たりには広いリビングとダイニングキッチン。他にも幾つか部屋があるようだ。一人暮らしには充分すぎる広さだ。
「適当に楽にしててねー」
とりあえずソファに腰を降ろしてみたが、純和風の家で育ち、今は築ウン十年という寮の畳敷きの部屋で生活するイルカは真新しい洒落た洋間になかなか落ち着けなかった。
借りてきた猫のように固まっているイルカを他所に、カカシは軽やかな音を立ててキッチンで作業を続ける。
(俺、やっぱり図々しくないか?カカシ先生ともそんなに親しくないのに)
今更なことを考え始め、どんどん緊張が高まり息を殺してじっとしていると、キッチンからカカシに声をかけられた。
食事の支度が出来たのだ。イルカはギクシャクとカカシの元へ向かう。
「おお!!」
テーブルの上には白いご飯とワカメと豆腐の味噌汁、豚肉の生姜焼き、山盛りのキャベツの千切り、玉子とマカロニのサラダ・・・と、育ち盛りのイルカのハートを難なくゲットできるラインナップが揃っていた。
このマンションのような洒落たお上品な料理を出されたらどうしよう、と、イルカはビビっていたのでメチャクチャ喜んでしまった。
さっきまでの緊張も嘘のように溶けていく。
「さ、たくさん食べなさいね」
「いただきますっ」
イルカは空っぽの胃袋に勢い良くカカシの手料理を詰め込んでいく。味は見た目を裏切らず美味かった。
カカシもイルカのがっつきぶりに目を細めつつイルカの向かいに座り、するりと口布を下げた。
視線に気がつきカカシが顔をあげると、イルカが口を開けてこちらを見ている。
「カカシ先生、かっこいい・・・」
「・・・うふふー。好み?」
「ぶっ!何言ってんですか、先生!」
あっはっは、とイルカが屈託なく笑うので、カカシもあっはっは、と笑った。
美味い飯に釣られて、更にしょっぱなに極限まで上り詰めた緊張の反動で、イルカはかなりリラックスしてしまったのだ。
それほど時間も要せずに、イルカは綺麗に料理をたいらげた。
「はい、お茶」
ことりと目の前に湯のみが置かれた。イルカは満足げにお茶を啜る。
「んー、九時半か。これから帰れば門限にも余裕で間に合うでしょ?」
「あ、はい。今日はご馳走様でした」
腹も満たされ、イルカはすごく満ち足りていた。・・・・満ち足り過ぎてなんだか瞼が重くなってくる。
しきりに目を擦り始めたイルカにカカシは声をかける。
「どうしたの?眠くなっちゃった?」
「え?んん・・・何だか、急に・・・」
「イルカ君、よっぽど疲れてたんだねえ。泊まってく?」
「そんな、そこまでご迷惑・・は・・」
イルカの瞼はほとんど落ちかかっている。クラリと体が傾きかけたイルカの上半身をカカシが抱き込む。
「迷惑なわけないじゃない。ていうか、帰すつもりな―いしね」
意識を手放す寸前のイルカを胸に抱き、今度は隠すことなく腹の底からクックックと黒い笑いを漏らすカカシなのだった。
「うん、思った通り抱き心地もいいね。俺ねー、ずっとイルカ君と仲良くなりたかったんだよー?」
うっふっふっふとしつこく笑い続けるカカシの横隔膜の振動に揺られながら、イルカは心地よい浮遊感に引き込まれていった。