青春狂想曲 ACT・5 『炎の転校生』







「あ〜、めんどくせえが、転校生を紹介する」
担任のアスマが朝からかったるそうに立つその隣には、こんな二学期の半端な季節に小柄な転校生が一人立っている。
量の多そうな髪を一つに高く結い上げて、何故か顔半面は前髪に覆われている。
それに、忍術学園指定の(笑)学ランも着ていない。
変な雲の模様のマントのようなもの(イルカによる観察)にすっぽりと身を包んで、しかもそのマントの襟の所為で口元までも顔が隠れてしまっている。
(なんか、変わってるなあ・・・・)
独特の服装に圧倒されてイルカ以下、クラスの生徒たちは何となく黙り込んでいる。
「席は、そうだな。窓際の後の席に座っとけ」
イルカの思考を知ってか知らずか、アスマはイルカのとなりの空席を指差した。
一風変わった風体の転校生に戦々恐々とする教室であった。
もちろんイルカも戦々恐々と自分に近付いてくる転校生を見つめていたのだが、その転校生はイルカとばちと目が合うと、大きなつり目の瞳をにこと撓ませて見せた。
「おいらデイダラ。よろしくな、ウン」
「・・・俺、うみのイルカ。よろしくな!」
最初の印象がガラリと覆されると、それは劇的な効果で。
単純なイルカはあっさりと第一印象を覆し、異様な風貌の転校生と友好関係を築き始めたのであった。

イルカが陰で公認の、天然受けっ子になってはや一ヶ月。
イルカの身体の上を何人もの男達が通り過ぎていった。
しかし、過ぎ去るのを拒絶する男が一人・・・。
「ねえ、やらせてくんない?」
「・・・死ね」
「ああん、もう。口が悪いイルカも可愛いなあ〜」
朝の食卓を囲んでの会話である。
イルカの一挙一動にカカシは眉尻を下げて不気味に身をくねらせている。
はあー、と長く深いため息をイルカは吐き出した。
イルカもいい加減、カカシにいちいち本気で接するのは疲れると分かっているのだが、突っつかれるとどうしてもぎゅっと眉毛が跳ね上がってしまう。
「ガイとはするのに、俺とは駄目なんだ」
云うなりカカシの顔面に投げつけられた味噌汁の椀は、一滴も中身を零す事なくカカシに受け止められる。
それが更にイルカの怒りを煽るのをカカシは知っていて、わざとイルカを怒らせる。
「もう、学校行く!!」
「は〜い。いってらっしゃい♪」
イルカの前に並んでいた出し巻き玉子も、オクラ納豆も、小松菜と油揚げの煮びたしも、紅鮭の塩焼きもほとんど手付かずだ。
朝食をほとんど取らずに育ち盛りのイルカが昼休みまでもつはずもなく。
「おべんと、もう一個作らなきゃ〜」
カカシはいそいそと台所で立ち働く。
イルカに持たせたモノが一つ、そして、早弁用にもう一つ。
朝食の最中に喧嘩を仕掛けて、怒って飛び出したイルカに学校でもう一つ弁当を渡すのがカカシの日課になっている。
カカシに腹を立てつつも空腹には勝てず、顔を紅潮させながら弁当を受け取るイルカがまた良いのだ。
(あの顔だけで三発は抜けるよね)
怒ろうが、笑おうが、泣こうが、イルカの身体を味わった事がある者ならその表情全てに欲情するだろう。
ろくに教えもしないのに、イルカの身体は柔軟にどんな相手でも咥えこむ。
これは天性のものだろう。これから先、その能力が忍として役に立つかと言えば快楽にすぐさま飲み込まれるイルカには無理だろうが。
しかしまあ、ひどく具合の良い玩具が手に入ったものだ。
(今は、簡単に手放すつもりはないもんね)
くくく、と黒い忍び笑いを漏らしながらカカシは相変らずなのであった。






要領の悪いイルカは、会いたくなくて避けようとしている人間に限ってどうしても遭遇してしまう。
そしてここ最近、一番会いたくないと思っている人間に毎朝のように捕まってしまうのだ。
「お!!早いな!イルカッ☆」
イルカは失神しそうになった。
どうしてこうも、ガイはあちこちに、いろんな時間に校内に出没するのだろう。
今日はいつもよりも一時間も早く登校したというのに。
「お、おはようございます」
青い顔で引き攣りながら腰が引けているイルカにガイは全く気付かない。
「む!今日は始業時間までにはまだまだ時間があるな!どうだ☆俺と久しぶりに青春するか!!?」
わざとガイを避けて、あの日以来ガイと青春することもやめているというのにガイは全く意に介さずに、何の腹積もりもなくイルカを誘ってくるのだ。
以前と何ら変わりの無いガイ。
変わったのはイルカの内面の問題で・・・。
まあ、強姦されて態度が変わらないほうがどうかしているだろう。
今日のガイの誘いだって性的な匂いは皆無なのだが、ガイの場合前触れも無くコトがおっぱじまる所が性質が悪いのだ。
返答に窮してイルカの全身から冷や汗が噴き出す。
ぐいとガイの濃い顔がイルカに近づく。
イルカは首を竦ませて思わず目を閉じてしまったが、その時誰かがイルカの手を後方に引いた。
「イルカは今朝はおいらと約束してんだ、ウン」
「デ、デイダラ・・・」
にっこり!と音がしそうなほどの屈託のない笑顔を見せてデイダラがイルカの手を握っている。
「む!早速転校生と仲良くなったのか!良いことだぞっ、イルカ!」
バアンとガイから張り手を背中に食らってイルカは5、6歩よろめいた。
よろめいたイルカをデイダラは決して放す事なく、その手を思いがけない強引さで引くと、すたすたとガイを残し歩き出した。
「ガ、ガイ先生、そういうことなんでっ・・・」
「了解だ、イルカっ☆次こそは一緒に青春だぞっ!!」
サムアップでナイスガイポーズを決めたガイがイルカの視界からどんどん遠ざかっていった・・・・。

さくさくと二人はあても無く歩を進めていた。
別に始業時間まではだいぶ間があるので、デイダラに手を引かれるままイルカはポテポテ足を交互に動かしつづけた。
「デイダラ、あの。ありがとう・・・」
デイダラが、今朝の二人を見てどう思ったのかは知らないが、助けられたのは事実だった。
「お前、困ってるようだったからな。ウン」
デイダラはニコッ☆と可愛らしく破顔した。
「イルカは困った顔よりも、笑った顔のほうが可愛いぞ。ウン」
心なしかイルカの手を掴むデイダラの手に力が篭った。
ストレートなデイダラの物言いは、単純思考のイルカには効いた。
「な、何いってんだよ。デイダラの方が可愛いと俺は思うけど・・・」
僅かに頬を赤らめてイルカは返す。
お互いを可愛いと褒め殺す男子高校生って、どうなんだ。
と、ツッコム者はあいにく周りには居なかった。
二人は演習場も兼ねた裏山の少しひらけた草むらに腰を下ろした。
「ところでイルカ。お前部活動は何かやってるのか、ウン?」
「えと、一応湯治部に入ってるけど・・・」
「湯治部か、楽しそうだな。ウン」
自分の趣味が楽しそうと好感触でイルカのテンションは俄然上がる。
「お前も湯治部に入らないか?今度、年一回の部の旅行もあるんだ」
「そうか、考えておく。でも、おいらもクラブ活動してるんだ、ウン」
「へえ!何のクラブに入ってるんだ?」

「暁倶楽部だ、ウン」

イルカはそんな部は初耳だった。
「そんな部、うちの学校にあったか?」
「まあ、部活動というよりも、何校もまたにかけて活動するボランティア団体みたいな・・・」
「ボーイスカウトとか?」
「・・・・ちょっと違うけどな、ウン。人助けをしてるんだ」
「そうなのか、デイダラ。偉いなあ!!」
イルカは素直に感心した。
イルカは自分の毎日の生活に手一杯で人助けなど考える余裕も無かった。そんな自分が少し恥かしい。
「なあ、イルカ。お前も良かったらうちの部に入らないか、ウン?」
「え、俺が?」
ニッコリと笑ってデイダラは頷く。
「お前の笑顔はいろんな人間を癒すと思うな、ウン」
「ば・・何いってんだよ、デイダラ」
なんのてらいも無くさらりと言うデイダラを前にイルカは耳まで赤くしてしまった。
「俺はイルカの笑顔にも泣き顔にも気持ちよさそうな陶然としたイキ顔にも癒されるけどねっ!!」
「「・・・・!!!」」
突然の叫びにイルカは顔を青くして、デイダラはツリ目を丸くした。
ザザザと樹の上から飛び降り二人の間に割入って、未だに繋がれていた二人の手をカカシは引き剥がす。
「なんなのよ!手なんか繋いじゃったりしてっ!!」
「えっ、だってさっきデイダラに助けてもらって・・・」
「だからって!手を繋ぐ事ないでしょっ!!なにさ!顔を赤らめちゃったりしてさ!俺というものがありながら!!」
「ば、ばかやろ!デイダラの前で変な事云うなっ!!」
ワアワアと騒ぐカカシと今度は顔を赤くするイルカを、デイダラはポカリと口を開けて見ている。
「お前ら、付き合ってるのか。ウン?」
「付き合ってます!!」
「んな訳あるかあああぁっ!!」
イルカは絶叫を残してカカシに横抱きにされながらデイダラの前から姿を消した。

一人残されたデイダラ。
「ノンケじゃないなら、話が早いな。ウン♪」
デイダラは鼻歌交じりで一人、もと来た道を戻っていった。





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