青春狂想曲 ACT・6

「レッスン」







バフッとシーツの上に脱力した身体を投げ出されてイルカはあまりの煙草臭さに顔を顰めた。
よっこいせ、とおっさん臭い掛声でアスマはベッドの脇の丸椅子に腰掛ける。
アスマは髭面のせいで実年齢よりもかなり上に見られがちだが本当は20代半ばを過ぎたばかりだ。
(おっさんくさいよなー・・・)
と、アスマの容姿の事ばかり考えているイルカは例のごとく自分の身に降りかかった事を考えないように現実逃避をしている。
ここは学校の裏手にある教員宿舎で、アスマの部屋にイルカは抱え込まれたのだった。
「イルカ、身体は大丈夫か?」
「・・・はい」
哀しいほどに身体は大丈夫だ。
ちょっと前までセックスどころかキスすらした事も無いバリバリのチェリーだったイルカはすっかりセックスに慣らされてしまった。
男同士のセックスに。
なもんで処女ではないが未だに童貞のイルカなのだった。
あまりにもしょっぱい事実に思わずイルカの目頭が熱くなる。
そんなイルカの様子をアスマは黙って見守っている。
しまいにはグスグスと鼻まで啜り始めたイルカの頭を宥めるようにアスマは軽く叩く。
「まあ、とりあえずシャワーでも浴びてさっぱりして来いや」
「・・・あい・・」
アスマまでホモなんじゃ、という不安が心を過りもしたが体液でべたつく身体を何とかしたい欲求の方が勝った。
ユニットバスの扉を開けて黒カビがびっしりはえた浴室に鳥肌を立てつつもイルカはアスマの好意を受け取った。
その頃カカシは・・・・。


「あーらら・・・」
午前中の授業が終わり意気揚々と空き教室に戻ってきたカカシは無人の室内を眺め回して軽く片眉を上げた。
御預けを食らって息も絶え絶えになっているイルカを心ゆくまで堪能しようと思っていたのに。
イルカの亀甲縛りに使った荒縄は教室の床に散らばっている。
教室には情事の後の痕跡がはっきりと残っている。
「二人・・・、三人?」
イルカの体液の他に・・・・、さっきイルカと一緒にいた金髪の生徒の物とカカシが知らない人物の体液が一人分。
それから。
「んー・・・。えー?アスマ・・・?」
微かに紫煙の香りが教室の入り口付近に残っている。
また登場人物が増えてしまった。
イルカと得体の知れない二人とアスマとの間に何があったのだろう。
「まあ、何って・・・・ナニだろうけどさ」
まずはイルカの行方を探さなければ。
カカシは昼休み中の校内を普段は見せないパワーで駆け巡った。
何やら途中でライバル心を刺激されたガイがカカシに勝負を挑んできたがいつものごとく無視をする。
イルカの姿を求めてスパンスパンと二年生の教室の扉を開けまくっていたカカシは、あるチャクラに気付き動きを止めた。
この季節に暑苦しい黒い外套をすっぽりと被った金髪の、最近イルカといつもつるんでいた生徒。
先程の空き教室に残されていた体液の持ち主の一人。
こいつが亀甲縛りのイルカに好き放題したのか、と沸々と何かがカカシの中に湧き起こってきた。
が、すぐさま。
らしくも無いなあと軽くカカシは首を振る。
自分の信条は自由恋愛、自由性交。
お気に入りの玩具に手を出されて少しむかっ腹が立ったのだと、そのもやもやを嚥下してカカシは金髪の生徒に声をかけた。
「あのさー」
「ウン?」
振り返った金髪の生徒は大きなつり目で可愛らしい顔立ちをしている。
タチ、というよりもネコ、のほうがしっくりくる。
でもこの可愛らしい生徒にイルカが攻め立てられたのかと思うとそれはそれでクルものがあるなーと、自由性交を信条とするカカシらしい事を考えてみたりもする。
「イルカは何処に行ったの?」
「アスマ先生が何処かに連れて行ったぞ、ウン」
などと、その生徒は不穏な発言をした。
あの髭は何処にイルカを連れて行って、一体何をするつもりなのだ。
「そりゃあ・・・・何って、やっぱりナニだよね!」
「ウン?・・う、ウン」
突然カカシに同意を求められて訳も分からずに金髪の生徒は頷く。
「やっぱりそうだよねえ・・・・。髭!!!」
カカシはすぐさま踵を返してもと来た道を戻った。
金髪の生徒以下、アスマクラスは挙動不審なカカシを呆然と見送る他無かった。









むっと熱気が篭る室内で扇風機を回したところで、熱気か撹拌されて温風が吹き付けられるだけなのだが。
アスマの部屋の唯一の冷房機であるそれは必死に己の使命を果たすように羽根を回し続ける。
温風にアスマが吐き出した煙が混じりイルカが少し咽たが、アスマは構わずに煙草を咥えている。
「俺はホモじゃないです」
「誰も何も言ってねえだろが・・・」
「俺はホモじゃない!こんな生活もう嫌だあっ!!!」
突然泣きギレして、ベッドに突っ伏して号泣するイルカをアスマはしばらく放って置いた。
泣きすぎてえづき始めたイルカにやっとアスマは手を伸ばしてその丸まった背中を摩ってやる。
イルカの後頭部をアスマの大きな掌がぐりぐりと撫でる。
日頃の鬱憤を晴らすかのようにイルカはうわあうわあと、声を張り上げて泣きに泣く。
その間も変わらずにアスマはグシャグシャと乱暴な手つきでイルカの黒髪をかき回し続けた。
散々泣いた後、グシャグシャになき濡れた顔をようやく上げてイルカはアスマを見た。
イルカの制服は汚れてとても着れたものではなく、今はアスマの洗いざらしのTシャツを借りている。
Tシャツの下には何も身につけておらず、こんな格好をカカシの前でしたら即座に押し倒されている所だ。
でもアスマの顔は教室で見る顔と何ら変わりなく、少し突き放しつつも必ず手を差し伸べてくれる、そんないつもの顔をしていた。
「で。お前はこれからどうなりたいんだよ」
「・・・どう、って」
それはもちろん、まともな生活に戻りたい。
数ヶ月前の、質素ながらも平和に寮生活をしていたあの頃に。
だが、それは叶わない。
なんたって学生寮はホモの巣窟だからだ。
それを言ったら学校自体がホモの巣窟なのだが。
そして自分が住んでいる今の部屋は変態ホモ教師の住処だ。
何処もかしこもホモだらけだ。
「もう・・・嫌だ」
出てくる言葉はそれだけだった。
「ヤラれたくねえなら死ぬ気で抵抗しろよ」
ぐ、とイルカの喉が詰まる。
だって、今日は不可抗力だ。抵抗しようにもカカシのバカに縛り上げられて体の自由を奪われていた。
ならそれより前は?
ガイにヤラれたとき。寮生達にまわされたとき。
イルカの体の自由が奪われていたのか、というとそれは否。
現時点では数ヶ月前に比べて体術のレベルは向上した。
イルカが本気で抵抗すれば、今はもうその辺の生徒なら手出しできないだろう。
けれども。
カカシの言葉が頭に浮かぶ。
イルカは快楽に弱いんだからーーー。
頭では嫌だと思っても身体に触れられれば途端に抵抗できなくなってしまう。
「て、抵抗しないわけじゃ、無いんですっ・・・」
エグッと、イルカの喉が鳴る。
「俺、俺の身体、変なんです!」
「あぁ?」
「抵抗しようと思って、もっ・・・。力が入らなくなって」
再び大粒の涙をボロボロ零しながらイルカがアスマに縋り付く。
洗い髪を降ろしたイルカはひっつめ髪のイルカよりもますます幼く見えるのだが、赤ら顔で涙を零し懸命にアスマを見上げる様はなぜか煽情的でアスマは咥えた煙草を口の端から落としそうになった。
(こいつ・・・・)
よしよしと頭を撫でてやると、うわーと泣き声を上げてアスマの胸にイルカは顔を埋めた。
その泣き声は子供っぽくて色気とは程遠いのだが。
アスマが髪を撫で下ろしそのまま背中へ掌を移動させればイルカは軽く背中をそらせた。
胸の中に抱き抱えたイルカの身体は、既に力を無くしてクタリとアスマにしなだれかかる格好になっている。
「確かに・・・。ちっと、人よりも・・・あれだな」
感度が良すぎる。
背骨をなぞるように背中を撫で上げてやれば、アスマにしがみ付きながらイルカはビクビクと背中をしならせる。
「ほれ」
アスマが自分の身体からイルカを引き離して、額をトンとこづけばイルカは簡単にベッドの上に仰向けに倒れた。
見た目よりも柔らかい艶やかな黒髪がシーツの上にさらりと広がる。
「力が入らねえか?」
「・・・入りません・・」
ベッドの上に身体を横たえたまま潤んだ瞳でアスマを見るイルカは、本人にその気が無くとも誘っているとしか思えない。
自分の身体の反応を『変だ』としか認識できないイルカの幼さにアスマはハア、と一つため息を零した。
「イルカ、俺はな。男の身体には興味がねえ。だから俺に触られても流されるな。自分をコントロールしろ。で、死ぬ気で抵抗してみな?おら、練習するぞ」
アスマの言葉にイルカの焦点が薄れていた瞳が少し確りとしたものになった。
アスマはイルカが一年の頃からの担任で、今年もそのまま持ち上がりで担任になった。
丸一年以上接していてもイルカがアスマに何か無体を強いられた事は一度もなく、アスマの言葉は信じるに足るとイルカは判断した。
問答無用で襲いかかって来たホモ達に比べればアスマは信頼できる。
アスマがきっと、このホモ学園で生き延びる為の最後の砦になるに違いない。
イルカは脱力した身体を叱咤して、ぐっと上半身を起こす。
「がっ・・・、頑張りますっ!!」
「よーし、いい返事だ」
ニッと目を細めて笑うアスマにイルカもやっとぎこちなく笑顔を返した。
こうして昼下がりの個人講義はスタートしたのだった・・・・。





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