青春狂想曲 ACT・7 『青春狂想曲』








温泉旅行当日。
イルカは朝から月光ハヤテの尻を追い掛け回していた。
何故ならハヤテの隣が今のところ唯一の避難場所だからだ。
「逃げるから追われるんですよ、イルカ先輩」
などとハヤテは涼しい顔でイルカに言うが、逃げなければイルカはあっという間に獣どもに取って食われる事をこの数ヶ月で学習した。
右に逃げればカブトが不気味に微笑み、左に逃げればガイの凶暴なまでに白い歯のエナメル質に目を焼かれる。
前方に駆け出そうとすれば暁倶楽部の面々と学生寮の猿どもがイルカに友好的に手を振る。
後ろに飛び退ればカカシが抱きついてくる。
アスマはあれからも変わらぬ態度でイルカに接してくれるが、イルカの方で気恥ずかしく何となく敬遠してしまう。
まさしく四面楚歌。
イルカは毛を逆立てた猫よろしく近付くもの全て、動くもの全てに威嚇しまくっていた。
「朝から張り切っているな、イルカ」
「イ、イビキ先生・・・・」
バスに乗り込む前からぜいぜいと肩で息するイルカに森乃イビキが凶悪な笑みを見せる。
イビキが凶悪な笑みを浮かべたのはイビキ本人に他意があるわけではなく、もともとイビキが悪人面だからだ。
イビキは湯治部の顧問で一年の頃からイビキの世話になっているイルカは本当はイビキが虫も殺せぬ心優しい人間だと知っている。
なにせ湯治部の部室のマスコット、ジャンガリアンハムスターの『おはぎ』はイビキが持ち込んだものだ。グローブのような大きな掌の上におはぎを乗せて目を細めるイビキを部室でイルカは何度も目撃している。
なんにせよイルカの安らぎの場所がやっと見つかった。
ハヤテはイルカを襲う事も無いが、イルカを助ける事も無い。それならばハヤテの傍にいて乱交に巻き込まれるよりは二年目の付き合いにな信頼の置けるイビキの傍に居た方が安全だ。
「イビキ先生、隣に座っていいですか!」
「うむ、いいぞ」
イビキが顔面の陰影をぐわっと濃くする。笑ったのだ。
その瞬間周囲を走る舌打ちの音をイルカは一切無視してイビキと一緒にバスに乗り込んだ。
通路側のガードはイビキに任せてイルカは窓際に身を小さくして席に着く。
今後の予定としては目的地に着いたらホモどもをまいて、日中は外湯を一人で満喫。
そして夜はイビキの部屋にでも泊めてもらおう・・・・。
イルカは今後はイビキの尻を追いかける事に決めた。
そんなこんなで忍術学園一行は秋の有馬温泉に一路向かう。



「うわぁ・・・」
予約した宿はまあそこそこ小奇麗、としか褒めようが無かったがその宿の庭は素晴らしかった。
ホモどもがギュウギュウに詰め込まれたバスはまだ色づいてはいないが緑鮮やかな紅葉が両脇に植えられた緑のアーチの中を抜けて宿の奥まった玄関に到着した。
もうその雰囲気だけで感動したイルカはバスから降り立ったまま直立不動で打ち震えている。
多少ひなびた温泉宿ではあるが、そこを補って有り余るこの庭。露天風呂もこの分なら充分期待できる。
ビバ湯治部!ビバ温泉!
内なるイルカが万歳三唱する脇を昼間っから飲んだくれるのが目的のその他の参加者は荷物を抱えてぞろぞろと宿の中に消えていく。
今回の温泉旅行に参加するのは、湯治部の面々、忍術学園の教職員達、何故か暁倶楽部の面々。
暁倶楽部の責任者は教頭の大蛇丸で、今回は暁倶楽部の部活動という事で温泉に同行するのだそうだ。
温泉郷でお年寄り達に何か奉仕したりボランティアでもするのだろう。
「海野イルカ、暁倶楽部の歓迎会も兼ねて今夜はパーッとやるぞ」
さて宿に入るかと荷物を抱え直したイルカの肩をがっしとイタチが掴む。
「・・・・誰の、歓迎会・・・」
「イルカの歓迎会だぞ、ウン」
空いているもう片方の肩をがっしとデイダラが掴む。
イルカは素早く二人の手を振り払うと足早にイタチとデイダラの傍を離れた。
この二人とは会話が成立しない事も学習済みだ。とにかく相手のペースに巻き込まれたらおしまいなのだ。
部屋割りは大雑把に生徒と教師に分かれているので日中はイルカも湯治部部員が雑魚寝する予定の大部屋に移動する。
トタトタと廊下を進むイルカにその時、真向いから大きな白い物体が近づいてきた。
「イルカ君!」
「・・・・教頭先生」
日の光を良く反射しそうな真っ白な長袖の上に更に長手袋、そして腕に引っ掛けた日傘と、だいぶ陽射しも柔らかくなった秋口だが、しかも室内だと言うのに今日も紫外線対策万全で美白に余念が無い大蛇丸がしゃなりしゃなりとイルカに近づいてきた。
「暁倶楽部は君を歓迎するわよ」
「・・あの・・・」
取り合えず、暁倶楽部の連中は人の話を全く聞かない。
「心配しないの」
大蛇丸が片目を瞑って人さし指でちょんとイルカの唇に触れた。
ぞわ、とイルカの背中には鳥肌が立つ。
「部活動を掛け持ちなんて、良く聞く話じゃない?湯治部と暁倶楽部、君なら両方頑張れるわ!」
「はあ・・・・」
まあ、ボランティア活動に参加するのはやぶさかではないのだが、あのデイダラとイタチと一緒というのが、非常に身の不安を覚えるのだ。
「まあ、個人的に活動するんであれば・・・、時々なら」
「あら・・・あら、そう!!」
感極まったように大蛇丸がイルカの両手を握ろうとするよりも先に、イルカの身体はぐいいと、後方に引っ張られた。
「生徒の学外の活動は俺の許可がいるんですよ、教頭先生。俺は学外活動指導主任なので」
気がつけばイルカはカカシにがっしりと羽交い絞めにされている。
「!!!こんのっ、離せっ!!」
吠えても喚いてもカカシの拘束は解けない。なぜ羽交い絞めにする必要がある。
「あら、カカシ君そうなの?」
「そうです」
「そうだったかしら?」
「そうです。指定の書類に校長から校印を貰って、それから俺に提出してください」
「そう?わかったわ。自来也校長にお話しなきゃ〜」
大蛇丸は素直にカカシの言い分を飲むといそいそとその場を後にした。
何だかはじめてカカシの教師らしい一面を見てイルカは少し驚いた。
「お前・・・そんなに偉いの?」
「んー、全部嘘」
やっぱりカカシだ。
「はーなーせー!!!」
今度はあっさりと、カカシはイルカの身体を解放する。
すかさずイルカは間合いを取ってカカシに隙を見せないように対峙する。
「俺に構うなっ!!バーカバーカ!!」
歯を剥き出してひとしきり幼稚な罵声をカカシに浴びせるとイルカは大部屋に向けて走り去った。
「・・・危ないなー」
ぴょこぴょこと跳ねながら遠ざかるイルカの黒い尻尾をカカシは無表情で見送る。



今回の、ホモだらけの温泉旅行。
あの抜けているイルカのことだ、あっという間に隙を突かれて裸にひん剥かれるに決まっている。
割り振られた部屋にカカシが入るとまだ日も高いと言うのに同室のガイはべろべろに出来上がっている。アスマにしてもほろ酔いで、しらふの人間は旅行参加者の中で既に数えるほどしかいない。
放っておけばまず間違いなく、誰かしらにイルカはがっつりとカマを掘られるだろう。
ふむ、とカカシは考え込む。
この間アスマとイルカの三人でイタした時、胸がもやもやとして何となく面白くなかった。
自分はどうやらセックスの相手を誰かとシェアするのは生理的に駄目らしい。性には奔放だと思い込んでいたのだが新たな自分の一面発見だ。
「うん、とことん邪魔しようっと」
戸口で考え込む事数秒。怪訝そうにこちらを見ていたアスマに一言も声もかけずにカカシは踵を返す。
カカシはとことんイルカの尻を追い掛け回す事に決めた。
要は普段の行動と何ら変わりは無いのだが。



全日程、一泊二日の短くも長い温泉旅行は始まったばかり。








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