知盛はを一室に閉じ込めることはしなかった。
忙しい身なのか、しばらく姿を見せないこともままある。
は自分が捕らわれたという意識は乏しく、逃げ出そうという気も起きなかった。人はその状況に慣れてしまうもので、知盛の邸の中を自由に歩きこそすれその外に出ようとは思わない。
自分がこの邸において歓迎されていないことはしばらくして自分を取り巻く空気から伝わってきた。
端女達が姦しく自分の事を噂している。部屋を出て手水などに向かうと、大股ですぎるの前で邸の女達は決まってこれ見よがしに声を潜め目配せをする。膳の汁をすすれば必ず砂を噛んだ。
あからさまに椀に蟲を入れられた時はさすがに辟易して、は知盛に言った。
「知盛、お前が私の膳をもて」
ひとしきり身体を貪られて四肢に全く力が入らず、しどけなく横たわるの前で知盛は目を丸くした。そのすぐ後でから顔を背けると苦しげに裸の背を震わせ始める。
笑いをこらえる知盛にこそ目を丸くした。
「これはいい。この俺に膳を持てなどと、お前以外に誰も言うまいよ」
「持つのか、持たないのか」
「いいだろう。お前が望むままに・・・」
少し肉の落ちた背中を辿り、そのままの黒髪に口付けながら知盛は約した。
知盛は本当にに数度膳を運んだ。その回数は片手に足るほどではあったが女達への牽制には役立ち、の膳への悪さだけはぴたりと止んだ。
こうしては飢えを免れたが、邸の女達からの風当たりはいっそう強くなった。
知盛はこの邸の主で、その主に膳を持たせるなど考えられぬことだったのだろう。だが、はこの場所に来たくて来たわけではないし、もと居た場所を奪ったのは当の知盛だ。女共がいくら腹を立てようともの知ったことではない。
しかし、あの邸に帰りたいのかと問われればは返答に窮す。
いま知盛の邸に居て良い大儀などには無い。 


物思いに耽り中庭をそぞろ歩いていたは文字通り頭から冷水を浴びせられた。
黒髪がべたりと視界を覆い、着物の中にじわじわと水が染みていく。
一瞬なにが起ったのか分からなかったが、重く水を吸った黒髪を払い笑い声が聞こえる方を見やれば簾を垂らした部屋の奥に女達が数人さざめき笑っているのが見えた。
簾の手前で空になった柄杓を持ち、膝を揃え控えている端女がいる。その端女すらを渡殿の上から見下ろし口の端に嫌な笑みを浮かべている。
「なにやら熱に浮かされたように、ぼんやりとなさっておったゆえ。これで多少は涼しくなりましょうな」
簾の奥から高く耳障りな声が聞こえてくる。その部屋の中でひときわ豪奢な着物に身を包んだ女がそう言えば、追従して他の女達も笑い声を立てる。
「ほほ、かの者の取り得など人より少し見目が良いだけ。すぐにお館様も飽きてしまうに違いないわ」
「せいぜい、その卑しい身体でお館様を逃さぬよう励むことじゃな」
人を蔑む言葉は女の口から出る方が汚い。
は女達の舌戦に応えはしなかった。
無言で着物の裾が汚れるも構わず地面へしゃがみ込む。
「お前達の頭も冷やしてくれるわ!」
は中庭に置いてあった一抱えもある洗濯盥を両手でしっかと持ち上げると、細腕のどこにそれほどの膂力があったのか一段下がった中庭から女達の部屋へ向けて投げつけた。
汚れ物を濯いだ汚水が女達の頭の上に一斉に降り注いだ。
「いやあああ!」 
それからは阿鼻叫喚。
「臭い!臭いぃ!」
「お前達の衣の濯ぎ水だろう。お前達の性根が腐っているから臭いのだ」
蜂の巣を突いた様な騒ぎを起こしたはまるで他人事で、濡鼠のまま中庭に突っ立って右往左往する女達を感慨も無く眺めていた。
がどこまでも無抵抗なのを良い事に、最近少しばかり嫌がらせの度が過ぎていた。この女達が知盛の妻なのか妾なのか知らないが、がこうまで虐げられる謂れは無い。
「何事ですか」
その滑稽過ぎて笑えもしない場をたおやかな声が壊した。
ひびきの良い、柔らかな男の声だ。
「重衡様っ」
それまでの騒ぎは何処へやら。男の姿を見て女達はしおしおと萎れ、逃げるように奥の間へと消えた。
一方、残されたは男の顔に釘付けになっていた。女達は確か重衡と名を呼んでいたが。
「お前は・・誰だ」
女達が消えた後の部屋の惨状をとくとくと眺めていた男はの言葉でこちらを振り返る。
「さて、あなたこそ何処のどなたなのでしょう。寒椿の君」
この顔をした男はどうも人の名を好きに呼ぶ性質があるらしい。
だ」
様とおっしゃるのですか。その可憐な姿形に良く合っておられる」
男はそうの名を評して目を細める。
知盛と瓜二つの顔を持つこの男は、知盛とは真逆の穏やかな空気を纏っていた。
男はその柔らかな空気に反し素早い身のこなしで中庭まで降りてきて、まるで壊れ物に触るようにの手を取った。
「しかし、なぜそのように濡れておいでなのですか?」
「ここの端女に水を浴びせられた。だから私は洗濯盥を女共の部屋に投げ入れてやったのだ」
「なんと・・・」
どうとでも思えば良い。は濡れそぼった身なりを整えもせず、ただ男から目をそらさずに居た。
「邸の者が失礼をいたしました。そのように濡れたままではお体も冷えましょう。すぐに代わりの衣を用意させます」
この邸の者達はみなを疎ましく思っている。知盛ですらせいぜい毛色の珍しい玩具くらいにしかを見ていないだろう。
知盛と同じ顔をして優しい言葉をかけてくるからは余計に驚いた。
「怒らないのか。女達は泣いていただろう」
「先に非礼を働いたのはあの者達でございましょう。どうかお許し下さい」
男の美しい柳眉が痛ましげに寄せられる。
こうも丁寧に扱われるとかえって落ち着かない。
「私のことは放って置いてくれ。戻る」
は男の手を払い、踵を返す。しかし、思いがけない強い力で腕を引かれた。
振り返れば男がの手首を握っている。
「このままお帰しする訳には参りません。様、どうか・・・・」
知盛と同じ銀色だが、その髪はすんなりと伸び端正な顔をふわりと包んでいる。目の色は知盛と同じ、透き通るような紫だ。
だがこれほどに造作が似通っているのに、やはり知盛とは違う。
「はな・・・」
「放せ」
の声に聞きなれた深く響く声が重なる。
「兄上」
男がの手首から指を解いた。
「また派手にやられたものだな」
「分かっているなら、お前の女の躾くらいしっかりとしろ」
知盛は声もなく喉だけで笑うとが濡れているのも構わず背後から抱きすくめる。
「重衡、これはお前には御せないぞ」
「私はっ、そのようなつもりでは・・・」
重衡はと知盛を見て困惑した表情を浮かべている。知盛は重衡に構わずを抱きすくめる腕の力を強めた。
「これは俺のものだ」
知盛の言葉には思わず間近にある知盛の顔を見上げた。
ぴたりと重衡を見据えたままの知盛には普段の不敵な笑みが浮かんでいない。どくどくと勝手に跳ねだす心音を悟られぬように知盛の腕の中では身動ぎした。
重衡は重衡で知盛の言動に面食らっていたようだったが、直ぐに落ち着きを取り戻した様子で口を開く。
様、あなたは由仁殿の姫でいらっしゃいますか」
重衡の口から久しく思い出しもしなかった父の名を聞きは我に返った。
そのの身体に知盛は息が詰まるほどにきつく腕を回す。
「なんのことやら・・・。これはただのだ。そんな姫のことなど知らん」
「兄上」
重衡の口調は知盛を諌めるように、視線も険しいものになる。
「明子様から書状を頂きました。兄上が高貴な顔立ちをした美しい女人を連れて帰ったと。それは由仁殿の邸から姫君が消えた時期と重なる」
「ふ・・・、あれも余計な真似をしてくれたものだ」
口で言うほど腹を立てるでもなく、知盛は自分の女の行為を笑い捨てた。
「由仁殿の一件において、父上は残された幼子や女人には慈悲を与えると仰せになった。そのことを兄上も知らぬ訳ではございますまい。様はここで虐げられていて良いお方ではありません。しかるべき場所でお守りしなければ・・・」
「重衡、お前もこれを貶めんとする女達と同じだ」
知盛が重衡の口を封じた。
「これが虐げられた哀れな女に見えるなら、余計にお前に渡すわけにはいかんな」
「・・・何と、言われます、兄上」
重衡の顔が強張る。
しかし知盛は重衡との話を一方的に打ち切りの手を引くと、の部屋へと向かい歩き始めた。
その知盛の足の運びの速さには半ば引き摺られるようになる。
様!」
その重衡の声音の必死さには思わず振り返った。
「平重衡と申します。また、私と会って頂けますか・・・」
どう応えたものか。
が逡巡する内に重衡の姿はどんどん遠ざかっていった。


楔が穿たれる度に体が勝手に跳ね、漏れる声を押さえる事が出来ない。
「う、うっ・・。くぅ・・!」
知盛はいつものようにの膝頭を胸に付くほどに押さえつけ腰を思い切り叩きつけてくる。
剛直を突き立てられている秘唇からは耳を覆いたくなるような高い水音が立ち続けている。
「あ・・!あ・・!」
激しく男根を突き込まれ、知盛を微塵も拒む事も出来ずはどんどんと追い詰められていく。
「ひ、あぁ・・!」
の足の間から溢れる蜜は下腹部を伝い臍に溜まり、そこでも受け止めきれずに脇腹に流れ寝具を濡らしていた。
知盛の猛る雄はその蜜を掻き混ぜ、掻き出しの絡み付いてくる肉襞の中に何度も何度も潜り込む。
一際深く楔を打ち込まれて窮屈な態勢のままの顎が上がる。
「・・・っ・・」
知盛が息を詰めると同時に熱い飛沫がの中に浴びせられた。
ひくりひくりと収縮を繰り返すの秘肉の中から知盛はなかなか去ろうとしない。
押さえ付けられていた膝裏から知盛の手が外れると力無くの両足はしっとりと汗と体液を吸い込んだ寝具の上に落ちた。
「早く、抜け・・・」
露骨なの物言いに知盛は喉の奥で笑いを零す。
未だ硬度を保つ知盛の雄が引き抜かれる感触に、気を遣ったばかりのの体はブルリと震えた。
「重衡が、お前を無理矢理に連れて行こうとしたらどうする」
寝物語の戯言のつもりか、汗に濡れたの体を腕の中に抱いたまま知盛は言った。
「・・何処に行こうが同じだ」
事後の気だるさに呆としていたは喉元に走る痛みに顔を顰めた。
「・・は・・」
思わず吐息が零れる。
知盛の白い歯がの柔肌を甘噛みし、その薄い唇が気まぐれにの白い肌に吸い付き赤い華を散らしていく。
肩に、二の腕の内側、胸元、腹部、太腿から脛に至るまで知盛は余すところなくの肌に唇を這わせ噛み付き、吸い上げる。
「あ・・、あ・・」
脇腹から背中へと口付けられては声を押さえる事が出来なくなった。体が際限無く熱くなる。
知盛が背後からの腰を高く持ち上げた。
「あぁーーーっ!」
一息に貫かれる。
は上体を支えられずに腰だけを高く上げたまま知盛の好きなように揺すぶられる。昼の最中から盛りのついた犬猫のように何度も体を繋げる。この体勢ではの全てが知盛の前に晒されているだろうが、今は理性など保つ余裕もない。
の濡れた肉は貪欲に知盛の猛る剛直を噛み締めて奥へ引き入れるように煽動する。
「う、あぁ・・!」
最奥を突かれ押し出されるように声が上がる。奥深くにまで知盛の肉が分け入り、の身体はぐずぐずと溶けていく。
秘肉を震わせてが気をやったのと、知盛が精をの腹の中に注ぎ込んだのと、どちらが先だったか。終わるかと思えば、再び身体を返されて知盛は再びの潤みきった秘所に猛る雄を埋めてくる。は最早声も出ない。
の意思に反して身体は既に知盛を覚えてしまった。
どれだけ貪れば知盛はこの身体に飽くのか。
知盛が飽いた時、自分はどうなるのか。

その日、は気を失うまで犯された。