九郎は一人、磨き上げられた渡り廊下を足早に歩いていた。
景時とともに先の戦の報告のため鎌倉まで出向いた九郎であったが、兄の頼朝にこの場に残るよう言い付かったのは景時ただ一人だった。
兄を想う気持ちは誰にも負けないと自負している九郎にとって、自分よりも景時のほうが頼朝に信頼を置かれているのではないかと思わせられるこのような状況は決して心中穏やかではいられない。
自然歩調にもいらいらとした様子がにじみ出てしまう。
居丈高に足音を立てて廊下を進む九郎に、頼朝の邸で働く下男下女までが気遣わしげな視線を寄越す。
それが更に九郎の心をささくれ立たせる。
しかし源氏の軍を預かる将として私心に左右され気を荒げるなど恥ずべき事と、景時が控えている部屋にたどり着く頃には九郎は何とか気持ちを落ち着けていた。
京へ戻る前に一言挨拶だけでもと、部屋の中に居るであろう景時に声をかけようとして九郎は息を呑んだ。
一人控えているであろう景時の部屋から途切れがちに苦しげな声が聞こえる。
そういえば兄の御前に二人で上がった時、景時の顔色は優れなかった。
体調を崩して苦しんでいるのかと、戸に手をかけ九郎は再び身体を硬くした。
『あ・・・ああ』
九郎の耳に飛び込んできた声は、苦しげな呻き声などではなく睦み会う者同士が零す色めいた吐息にしか聞こえなかった。
兄上の膝元で景時はいったい何をしているのかと声を失ったままの九郎の肩にやんわりと誰かの手が置かれた。
ビクリと大げさに身体を揺らす九郎を前に鈴が転がるような笑い声を立てたのは政子であった。
思いがけない人物が目の前に現れて九郎はますます動揺する。
景時が何をしているのかは知らないが、このことが頼朝に知れればいくら兄からの覚えがめでたい景時といえども立場が悪くなるだろう。
開きかけた戸を静かに閉じ、部屋の入り口を塞ぐようにして九郎は政子と向き合った。
無難に挨拶をして引き取ってもらおうと九郎が口を開くより先に、政子は九郎の言を奪った。
「いけない子。覗き見をしていたの、九郎?」
「政子、さま・・・」
目の前で艶やかに笑って見せる政子にはどこか、何とも言えぬ迫力があり九郎はろくな言葉が紡げなかった。
覗き見という物言いは、政子が室内で行われていることを承知であると言外に九郎に告げている。
「鎌倉殿は京へ戻るよう言ったはずでしょう」
「は・・・、今すぐに」
景時を庇うよりも何よりも、認めたくは無いが目の前の小柄な女人の禍々しい妖艶さにあてられて、九郎はその場を逃げ出したくて仕方が無かった。
しかし踵を返そうとした九郎の右腕に白魚のような手が絡みついてくる。
その素早さに九郎も咄嗟に反応が出来なかった。
「でも・・・、大勢のほうが私も景時も、少し楽かしら?」
何の話なのか全く見えない。
政子の赤い艶やかな唇が形よく弓なりに吊り上る様を、九郎は成す術もなく見つめていた。
相手のペースに飲まれたまま九郎はその場を離れられずにいる。
「あの人も案外お喜びになるかもしれないわ」
口元を隠してまるで小さな悪戯を思いついた子供のように、政子は屈託なく笑って見せる。
しかしそれにそぐわずに政子が纏う妖艶さは刻一刻と増すばかりだった。
九郎を難なく押しのけて政子は躊躇いもせずに部屋の戸を開いた。
突然に九郎の目の前に開けた視界。
その光景は九郎にとって到底現実とは思えなかった。
「あっ・・、ああ!」
筋肉の引き締まった逞しい四肢は、今は一糸纏わぬ様子で布団の上に組み敷かれている。
うつ伏せに引き倒され、両腕は更に逞しい手に一纏めに拘束され腰を高く持ち上げられている。
景時は赤子のように相手にされるがまま、男でありながら女のようにいつ止まるとも知れない律動を無理やりに受け止めさせられていた。
景時を女のように組み伏せているその相手は頼朝だった。
「九郎」
腹にずしりと響くような低い声に九郎の足は部屋の入り口に縫いとめられる。
「お前には京に戻るよう命じたはずだが、どうした」
全裸で汗みずくで頼朝に貫かれている景時と対照的に当の頼朝は衣の前を寛げただけで汗一つかかず涼しい顔で景時を貫き続けている。
「あ、兄上」
トンと背中を突かれ、それほどに強い力でなかったが九郎はがくりと板の間に膝をついてしまった。
伏せられた九郎の視界にふわりと桃色の薄衣が入り込む。
「あなた、九郎も一緒ならもっと楽しいわ」
板の間に膝をついたままの九郎に肢体も露に透けるほどの薄衣一枚を身に着けた政子がしなだれかかる。
衣を隔てて柔らかな政子の肉が押し付けられて九郎は慌てて身を引いた。
「政子様!何をなさるつもりですかっ・・・!」
「あら」
政子が高らかに笑い声を上げる。
「この状況で何をするのか分からないというの?」
政子の毒気に呑み込まれて九郎はピクリとも身体を動かすことが出来ない。
ほっそりとした政子の指が好き勝手に九郎の頬を撫で回しても抵抗できなかった。
「まあ、この吸い付くような白い肌。女の私でも嫉妬してしまいそうよ、あなた」
頬からあごの先を撫でられ、更に首筋を伝い着物の合わせ目に政子の指は分け入っていく。
目の前の政子の肩越しに頼朝がきつく腰を景時に叩きつけるのが九郎の目に入った。
「うああっ・・!」
苦しげに声を上げて景時が崩れ落ちる。
景時が崩れ落ちるに任せて頼朝は上体を起こした。
衣の合わせ目からは達してもなお硬度を保ったまま天に向けて屹立している頼朝の性器が覗いていた。
政子の手首ほどもあろうかという逞しすぎる頼朝の赤黒い雄を前に九郎は目を見張った。
自失したままの九郎の衣を政子はやすやすと剥ぎ取っていく。
「九郎は本当に美しいわね。あなた、この身体をご覧になって。まるでしなやかな若木のようよ」
「ふっ、お前はもともと九郎の見目を気に入っていたからな」
頼朝の声にビクリと九郎は身体を揺らす。
我に返ってみれば半裸の状態にまで自分の衣を取り払われている。
自分へ向かって伸びてくる頼朝の手に気付き、九郎は部屋の隅にまで後ずさった。
それを見て頼朝が冷笑を口元に浮かべる。
その表情に九郎は背中を氷片が滑り落ちるかのような寒気を覚えた。
「・・・あ、兄上。お戯れはおやめください」
「戯れと言うのか。この景時の姿を見てもか?」
九郎の顔が凍りつく。
顔色をなくした九郎の首筋に政子の細い腕が絡みついた。
「あなたの兄上はとても精がお強くて、私一人ではお相手が無理なのよ。だから景時にも手伝ってもらっているのだけれど。景時が壊れてしまってはいけないから」
政子が九郎の耳朶に軽く歯を立てる。
その途端ざあっと九郎の首筋から両腕にかけて鳥肌が走った。
「あなたも鎌倉殿へのお勤めに加わって頂戴ね、九郎?」
政子の鮮やかな赤い唇が半円を描いて吊り上った。