「ゆっくりと、目を開けてみろ」
瞼を閉じている段階から光の明暗は感知できるまでに回復していた。
これから先目が見えても見えなくても、イルカと一緒ならば自分は生きていける。
カカシの心は穏やかに凪いでいた。
カカシはゆっくりと瞼を開いた。
ぼやけた世界の輪郭が段々とはっきりしていく。
「見えます・・・・」
ベッドの脇には腕組をしてこちらを見下ろしている綱手がいた。
反対側にはシズネが付き添っている。
「写輪眼はどうだ。視力は衰えていないか」
「大丈夫です」
「そうか」
「良かった。視神経が断絶していただけで、角膜やその他の表面組織は無事ですね・・・」
シズネが隣で詰めていた息を吐き出した。
カカシは綱手に向き直る。
「・・・五代目。分かっていたんですか」
「はは!許せ!お前達を見殺しにする気はさらさら無かったぞ」
カカシを前に里一番の女傑は屈託無く笑って見せた。
「危ない橋を渡らせて済まなかった。しかし、おかげで上層部の大掃除が出来た」
「全く・・・あなたという人は」
カカシは大きなため息をこぼすと、ベッドに身体を沈みこませた。
チャクラが完全に回復してはいないのだ。


里の復興に取り掛かった綱手であったが、どうもいまひとつ成果が上がらない。
おおっぴらに妨害されているわけではないが、何か負の働きかけがあり、上層部の足並みがなかなか揃わなかった。
長らく里を留守にしていた自分が火影に就任したのだから何かと反発があるとは思ったが。
なかなか姿を現さない不愉快なネズミをどのように引きずり出そうかと考えていたとき、カカシが負傷したのだ。
特効薬を探しに、それと不安定な状態にある砂の里との関係の修復に。
綱手は国主とともに各国を訪れるというもっともらしい名目で里を離れた。
自分が不在の内、好きなように泳がせてやる。
だから早く動けと綱手は待ち構えていたのだ。


「まあ、お前が狙われるとは意外だったがな。クーデターくらい起こるかと思っていた」
「そちらの方が酷いじゃないですか・・・・」
「クーデターの一つや二つは問題じゃない。トラブルを収拾する手立ては何通りにも用意していたからな。考えてみろ。国外にいて昨日の今日で戻ってこられると思うか。カザミの不穏な動きは数日前からこちらに伝わっていた」
はあ、と、カカシは何回目かのため息をついた。
「あの人は、何がしたかったんでしょうね・・・」
カカシは自分の命を奪おうとしていた男の事を思い返していた。
きっとカザミも里を想う気持ちはあったのだ。
しかし、自分が一番正しいと思い込んでしまったことで歯車が狂い始めた。
力を求めるあまり、その目的を達しようとするあまり、手段についての善悪の判断がつかなくなったのだろう。
カザミは査問会と上層部から除籍され、今は隔離され謹慎中の身である。期間は無期限だ。
この手の男は里外に追放したところで後々禍根を残すだろう。
手元に置いておくのが一番安全なのだ。
不穏分子を根絶やしにするべく、カザミに対しての尋問は連日続いている。
カザミに付き従ってカカシの部屋を訪れていた二人の男と、暗部の中でカザミに感化された者達が数名既に処分された。
この戦力不足のときに痛くはあるが、腐った葉や根は取り去ってしまわなければ共倒れになるだけだ。
「もう、何も起こらなければいいですが・・・・」
「今までが色々とありすぎたからな。まあ、まずはゆっくり休め。回復したらすぐさまこき使ってやる」
ニッと、白い歯を思い切り見せて綱手は破顔した。







温かなチャクラがこちらに近づいてくる。
間違えようも無い。
数ヶ月ぶりにその顔見ることが出来るのかと思うと、カカシの鼓動は我知らず早くなっていた。
かちゃりと部屋のドアが開いた。
カカシはじっと入り口を見つめ続ける。
ドアを内側に押し開けるも、イルカは中に入ってこようとしない。
「・・・カカシ先生」
イルカの足は入り口に縫いとめられたまま、動かすことが出来ない。
カカシはゆっくりとイルカに向けて手を伸ばした。
「イルカ先生、痩せたね」
はっと目を見開き、その後すぐに、くしゃりとイルカの顔が歪む。
堰を切ったようにイルカの瞳からは後から後から涙が零れ落ちた。
「泣くなら俺のそばで」
カカシが手をさらに伸ばす。
イルカは引き寄せられるようによろよろとカカシの手に向かっていった。
指先が触れ合ったと思った時にはイルカはカカシの腕の中に抱きこまれていた。
勢いあまって、二人一緒にベッドの中に倒れこむ。
「見えるんですか。カカシさん、本当に?見えるんですか」
胸の中に大人しく収まり、イルカは涙でぐしゃぐしゃの顔で懸命にカカシを見上げる。
「殴られたんですね」
イルカの右の頬が痛々しく青く腫れていた。
カカシの眉間に皺が寄る。
イルカの咽喉の皮一枚が真横に薄く切られているのを見て、カカシの眉間にはますます皺が寄った。
「こんなの、平気です」
「俺が知らない内にあなたに傷がついているなんて、いやだな」
カカシの視力が本当に回復したことが証明されて再びイルカの目頭は熱くなる。
「良かった。良かった・・・・」
胸元に縋り付いてくるイルカの背にカカシはきつく腕を回した。


「なんだかね。あなたがずっと傍に居てくれるのかと思うと、俺はもう死ぬ気がしないんですよ」










ナルトは三忍の一人である自来也に師事し、里を後にした。
サクラは医療忍を目指し綱手の下で修行を始めたという。

木の葉崩しで身を挺して里を守った忍の志は子供達に引き継がれる。
次の世代は着実に力を付け始めている。
里は一歩一歩、力強く再生の道を歩む。


一度は光を見失ってしまったけれど。
見渡せば、この世はなんと光に満ち溢れているのだろうか。




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