日もだいぶ傾いてきた。部屋の中がオレンジ色に染まる頃、あたし達は夕飯の買出しに行くことにした。
ナルトはお泊りセットなるものを取りにいったん部屋に帰るそうだ。
イルカのアパートから少し歩けば木の葉商店街に行き着く。ナルトのアパートは商店街の裏路地を少し入った所。
あたしとイルカは商店街で買い物しながらナルトが荷物を取ってくるのを待つ事にした。

さん、ありがとう。」
「ん?」
「ナルトの事です。」
「ああ―・・。良いんだか、悪いんだか、ねえ?」
代替行為なのかもしれない。ナルトには昔のあたしのように寂しい子供で居て欲しくない。
あたしが子供の頃に欲して得られなかった愛情を、暖かい環境を、ナルトには惜しみなく与えてやりたい。
ナルトが一人で時間を持て余す事が無いように、いつもそばに置いておきたい。
「あたし、構いすぎだよねえ。」
「あはは、もっと構いましょう。鬱陶しいって怒られるくらいに。」
イルカは悪戯っぽく笑った。
「俺はね、さん。あいつに自分は愛される価値がある人間だと自信を持って欲しいんです。これから先、人を愛する事はもちろん、愛される事にも怖がらずに対峙出来る人間になって欲しい。ナルトが俺を必要とするなら可能な限り傍にいようと思います。どんどん大きくなって、自分の世界がどんどん広がって、ナルトはそのうち俺の事なんかすっかり忘れてしまうかもしれません。でも、それでいいんです。新しく人と出会って、大勢の人間と繋がり合っていってくれれば。」
イルカの言葉はストンとあたしの胸に落ち着いた。あたしの中のナルトに対するもやもやをイルカは余す所無く言葉に紡いでくれた。
あたしもそう思う。
子供の頃にたくさん愛された記憶を持って、ナルトには大人になって欲しい。
「今ナルトは一人じゃありません。俺だけじゃなく、カカシ先生や、サスケや、サクラや、あなたもナルトを受け入れてくれた。俺はすごく嬉しいです。」

九尾の器。里から忌み嫌われた子供。
でもナルトはナルトだ。

「うん、あたしも嬉しい。」
背後から元気に駆けてくる足音が聞こえる。振り返ると夕日にキラキラ反射して金色のひよこ頭が跳ねるように近づいてくる。背負ったリュックの中には枕やらナイトキャップやら目覚し時計やら、あんまり必要ないものがぎゅうぎゅうに詰まっているのだろう。
「先生っ、姉ちゃん!おまたせ!」
なるとは躊躇せずにあたしとイルカの間に割り込み、片方はイルカと、もう片方はあたしと、当たり前のように手を繋いだ。
あたしは認識を改めた。うん、それが正しい。
やっぱり子供は愛されて当然なのだから。大人に遠慮なんかせずにどんどん甘えなさい。
「なあ!なあってば!飛行機やって!」
「「よ〜し!それ〜〜!!」」
あたしはイルカに合わせて思いきり腕全体を前後させる。
ナルトの小さな体はふわりと持ち上がり、前後に揺れるたびにナルトは歓声を上げた。
うわあ。何年前のホームドラマだよ。
こんな事を照れもせずにやっている自分に驚いた。

その後無事に買い物を済ませてあたし達は帰路についた。


今夜は食材を切って焼くだけの鉄板焼きにした。
めんどくさがりのあたしはかえって楽でいいのだが、イルカは食事に応じて様々な奉行になる。
で、今夜のイルカは鉄板焼き奉行なのだ。
「あっ!ナルト!その肉はまだ早いぞ!肉ばっかり食わないで野菜も食え!あっ!さん!塩辛ばっかりつついてないで肉と野菜も食べてください!空きっ腹で酒飲んじゃ駄目です!」
額に汗を浮かべてイルカは頑張る。何だか時給でも払ってやりたいくらいの頑張りようだ。
あたしとナルトの受け皿にはイルカの働きによりきっちり交互に肉と野菜が配給される。
ナルトはイルカの勢いに押されて、苦手な野菜を目を白黒させながら飲み込んでいる。
そんな微笑ましい二人を肴にあたしは久しぶりに美味い酒を飲んだ。

食事と後片付けも済んで、イルカは今風呂に入っている。
先にお湯をもらったあたしとナルトはそれぞれビールと麦茶を手にぼーっとテレビを見る。
「ナルト、こっちおいで。」
んー?と、ずりずりと膝をすりながら近寄ってきたナルトの脇に手を差し込んでグイッとナルトをあたしの膝上に引き上げる。
「いい加減、あたしに遠慮なんかしないでよ。寂しいなあ。」
「・・・だって。」
昼間の『俺帰る』発言。あれは一言、言わなきゃいかんだろう。
あたしはナルトを後抱きにしたままナルトのひよこ頭にぐりぐり顎を擦りつける。
少し緊張していたナルトの身体からゆっくり力が抜けていく。
「いい?ここにはいつだってあんたが帰る場所があるんだからね。イルカもあたしもナルトが元気に任務から帰ってくるのを待ってる。イルカはああ見えて寂しがりだから、あたしがいない時はあんたがイルカの傍にいてあげてね。」
「へへ、わかったってば。」
「じゃ、これは忍同士の約束。」
きゅっと小指を絡ませてあたしとナルトは指切りする。
心地いい沈黙の中、ナルトの身体に回した手でナルトの腰の辺りをポンポンと軽く叩いてやっていると、やがてナルトから穏やかな規則正しい寝息が聞こえてきた。

「あれ、寝てしまいましたか。」
イルカが風呂から上がってきた。
「ふふ、こいつ、はしゃいでいたから疲れちゃったんでしょうね。」
ナルトを見つめるイルカの眼差しは深く、優しい。
あたしの腕の中からナルトを引き取るとイルカはそっと寝室まで運ぶ。あたしはイルカの湯上りのビールを用意する。
「ぐっすり寝てます。」
「任務疲れもあるだろうしね。」
あたしは居間に戻ってきたイルカとグラスを合わせた。
食事中は奉行と化し、ほとんど飲んでいなかったイルカは美味しそうに一息でグラスをあけた。
「あ、そういえば。大事な事を言っていませんでした。」
人心地ついてからイルカが口を開いた。
突然かしこまるイルカにあたしは何事かと思わず姿勢を正す。

さん、無事に帰ってきてくれて嬉しいです。お帰りなさい。」

まったく・・・。イルカには敵わない。
奇跡のような思いやりをイルカは惜しむことなく与えてくれる。それも無自覚に。
傍にいてくれるだけで充分だというのに。
あたしはきちんとイルカに愛情を返せているだろうか。
あたしは胡座をかくイルカの膝上にイルカと向かい合わせで腰を落とした。
「ただいま、イルカ。」
イルカの手からグラスを取り上げると、イルカの首に腕を回してゆっくり唇を合わせた。
お互いの存在を確認し合うようにしっかりと探り合う。
先に降参したのはイルカだった。
「っ・・・さん。これ以上は・・。我慢できなくなる。」
「・・・そうだよね・・。」
隣の部屋ではあたし達の可愛い息子がすやすやと眠っているのだ。
あたしは思いっきり脱力してイルカとこつんと額を合わせた。
さん、我慢、我慢です・・・。」
「くっそう・・・。メチャクチャやりてえ・・・。」
「!!!さんっ!!」
「わーかってるってば。ナルトの前ではさすがのあたしも出来ないよ。」
自分で言いながらもあたしは未練がましく、イルカの首筋やら耳朶やらに指を這わせる。
「あ〜あ、そんなに色っぽい顔して煽らないでよ。」
「!!煽ってませんっ!!」
「こんなの・・・生殺しだ・・・。」
「う・・・・キ、キスだけなら・・。」
イルカの譲歩をもぎ取ったあたしはイルカの首筋に顔を埋めつつほくそ笑んだ。
「ね、明日は一日中しようね。」
「・・・・はい。」
首まで真っ赤になって答えるイルカにあたしはますます気を良くする。
さすがに深い口付けはお互いに辛くなるので、小鳥が啄ばむようなキスを何回も繰り返した。
アカデミーの子供でさえ鼻で笑うような、唇が触れるか触れないかの子供っぽいキスだった。
それでもあたし達は久しぶりに触れ合うお互いの体温に夢中になり、夜はどんどん更けていくのだった。