思いのほか熱が上がってしまった俺は次の日任務を休んでしまった。
この調子じゃあ、温泉は、無しだな。
落胆が更に俺の体力を奪う。
任務を休んだ夜、イルカ先生が俺の家に見舞いに来てくれた。
『サスケ、食欲あるか?今飯の支度するからな』
ああ、イルカ先生のことを万年中忍なんて思ったから。
罰があたったんだな。
俺が心の中でぼろくそに言っていたのに、イルカ先生は俺の看病に来てくれた。
万年中忍なんて言って、ごめんな。
イルカ先生、あんたは里一番の人のいい中忍だ。
なんだか褒め言葉に聞こえないのは、どうしてだろうな。
熱に浮かされてボーっとしていると、なんと、イルカ先生の背後からナルトが現れた。
『ニシシッ!サスケ、だっせえな!!風邪なんか引いてんじゃねーってばよ!!』
只でさえ熱に浮かされた俺の頭は、沸騰しそうになった。
熱が一気に頭にのぼる。
多分俺の顔は真っ赤になっていたと思う。
不意打ちでナルトが登場して・・・しかも俺の部屋に!!
俺は酸素不足の金魚のように、アホみたいに何度も口を開け閉めした。
『おい、サスケ。お前、ほんとに大丈夫か?』
ナルトが仰向けに寝ている俺の上に体をすこし倒した。
ナルトが、俺の額の上に手を置いた。
その手は、子供体温特有の熱さで、ナルトの掌を感じてますます俺の顔は火照ってしまった。
『うわっ!あちいっ!!』
すぐさまナルトは手を引っ込めてしまった。
残念だ。
でもナルトは俺が高熱を出していることをやっと実感したのだろう。
わたわたと慌てふためき、台所のイルカ先生の所へ飛んでいってしまった。
ナルトが俺のために慌てふためいてくれるなんて、気・・・・気持ちよすぎる。
普段からも全く俺の言うことを聞かない不肖の息子に、高熱でダウンしているのにも係わらず熱が集まってくる。
もっと俺のためにテンパって、ドタバタ慌ててくれればいいな。
そしてしばらくして、またもやドタバタと、ナルトは俺の寝室へ戻ってきた。
ナルトは両手で洗面器を捧げ持っている。
カランカランと、涼しげな音がする。
俺の枕元にナルトは洗面器を置いて、その上で思い切りぎゅうとタオルを絞った。
枕もとへ流れてくる冷気で、洗面器の中身が氷水だと知れる。
ナルトの両手は氷水に浸かったせいで真っ赤になっている。
おれは、じ〜んと。
胸が熱くなってしまった。
『これで少しは楽になるだろ』
ナルトは俺の額の上にタオルをのせた。
しかし額にタオルが乗る直前。
俺は見てしまった。
それは・・・。
それは!!雑巾だっ!!ナルトォーーー!!!
しかも、三日前に台所に零した牛乳を拭いて放置しておいたものだ。
床に置きっぱなしでごわごわになったものが、雑巾だと何故わからない!ナルト!!
俺の額の熱に暖められ、なんだか、雑巾が匂い立ち始めてきた。
匂いも辛いが、微かに額が痒くなり始めたのも・・・つ、辛い。
気付け!ナルト!!
これは、雑巾だろ!!
しかし、次の瞬間。
内なる俺の叫びはぶっ飛んだ。
前触れも無く。
俺の両の頬をナルトの掌が包んだ。
その手は冷水に使った直後でひんやりとしていて、火照った俺の熱を吸い取った。
『気持ちいいか?サスケ・・・』
イッ・・・・イェス!!オフコォーーーースッ!!!!
牛乳雑巾に萎えかけた俺の不肖の息子は俄然やる気を取り戻した。
そのあまりのやる気に、俺はナルトにバレないようにやや膝を立てて布団を持ち上げる始末だ。
まずい、やばい。
あまりの気持ちよさに、どこかに逝ってしまいそうだ。
その後、牛乳雑巾→頬を包まれる→牛乳雑巾→頬を包まれる、と。
俺はナルトの飴とムチに翻弄されまくった。
付き合いの良い俺の息子も、萎える→勃つ→萎える→勃つ、と、非常に忙しく立ち回った・・・。
俺の体力はナルトによってますます削がれてしまい、最後には意識が朦朧としてしまった。
ナルトとイルカ先生が俺の隣で何やら話している。
その会話は膜一枚隔てた様に不明瞭で、酷く遠い。
帰るって、行ってしまうのか。
そうか。
それは、仕方ないよな。
でも、出来たら・・・・・。
・・・そばに、居てくれ・・・・。
『・・・・わかったってばよ』
遠くでナルトの声がしたような気がする。
そのあと、俺は完全に意識を失った。
目が覚めると、辺りは白み始めていた。
右手に暖かさを感じて視線を下ろすと、ナルトが俺の手をしっかりと握っていた。
俺の右手を包み込んで更に自分の顔の下に押し当てるようにして。
ナルトはすっかり俺の布団の脇で眠り込んでいる。
俺の中に形容しがたいナルトに対する愛しさがこみ上げてくる。
一晩、傍に居てくれたんだな。
これでは逆にナルトの方が風邪を引いてしまうだろうに。
って、イルカ先生はナルトを置いて帰ったのか。
グッジョブ!イルカ先生!
中忍とは思えない鮮やかな仕事ぶりだ。
俺がイルカ先生を褒め称えていると、ナルトが僅かに身動ぎした。
けぶるような金色の睫に縁取られた瞼がゆっくり開くのを、俺は固唾を飲んで見守った。
ぼんやりとした水色の瞳が段々と澄んで力を持ち始める様を、俺は息をするのも忘れて見入った。
『あれぇ、サスケ。起きてたのかぁ?』
ナルトは寝ぼけ眼をごしごしと擦りながら、呂律がまわらない体で話し掛けてきた。
ね、寝ぼけナルトっ!!
萌えだっ!!!
俺の心拍数は寝起きだというのにガンガン上昇する。
それにさっきから、右手の甲に気になる感触が・・・。
『・・・・・ナルト、涎垂らすな』
俺の右手の甲は、なんとナルトの涎でしっとりと濡れていた。
『へへっ。悪ィなっ』
ナルトの体液ゲットだぜーーーっ!!!
ナルトが少し顔を赤くして頭を掻いているのをながめながら、俺は心の中で思い切りガッツポーズを決めた。
とりあえず、興奮を覚ますために俺はナルトから意識を反らしてみる。
『イルカ先生は帰ったのか?』
『カカシ先生も風邪を引いてるからなあ。今度はそっちに看病に行ったぜ?』
嘘だ。
上忍が風邪なんか引くか。仮病だろうが。
カカシめ。姑息な手を。俺に看病に来たイルカ先生を見て一芝居打ったんだろう。
人のいいイルカ先生はあっさりと変態上忍に騙されたらしい。
イルカ先生の操はとうとう奪われてしまったかもな。
俺がしばし、万年中忍と変態上忍のことを考えているとナルトは何を勘違いしたのかオレを気遣うように口を開いた。
『まあ、今回は、温泉は残念だったけどよ。また次に行けば良いってば!』
次・・・?
次に温泉。
俺を誘ったのか、ナルト!!
更に俺の体温は上昇する。
『あ、イルカ先生が作った飯があるぞ。食うか?』
ナルトが俺のために食事を用意してくれるのか。(作ったのはイルカ先生だけどな)
し、幸せすぎて怖いぜ。
俺はコクリと頷いた。
ナルトはにいっと笑って見せると、パタパタと台所へ消えた。
しばらくしてから、どしゃん、がしゃんと、不穏な音が台所から聞こえ始めた。
ナルト、どんな凄い食事を用意してくれるんだ。
その後の後片付けを思うとさすがに気分が落ちそうになるが、今だけは聞こえない振りをしておこう。
それと、俺の額の上でかさかさに乾いているタオルは雑巾だと、ナルトにきちんと言っておかなきゃな・・・・。
台所から伝わる、どたん、がしゃんと騒がしいナルトの気配にうっとりとしつつ、俺はもう一度眠りの中に引き込まれていった。