side:イルカ


本当に、困る。
相手にとってはほんの些細な事なのだ。
ふと、話し掛けられた時にそっと肩に置かれる手だとか。
髪に絡まる木の葉を取る時に、耳を掠める指先だとか。
子供達をきっかけに知り合った中忍に対して、親愛の情を、多分広く数多くの相手に対して彼から発信されている情の一つに過ぎないだろうけれど、それを分け隔て無く自分にも与えてくれているだけで。
少しでも好意を持つ相手にはスキンシップが過剰になってしまうのが彼のくせらしい。
だから、触れられる際は平静を装い感情が揺れないように細心の注意を払う。
カカシは丁寧に木の葉に絡まるイルカの髪の毛を解いていく。
大袈裟な程に慎重に、しなやかな指をあやつり、時間をかけてカカシは一枚の緑の葉をイルカの髪から取り除いた。
「はっぱ、取れました」
「ありがとうございます・・・」
小さな葉は上向きにイルカの目の前に突き出されたカカシの掌からフワリと風に乗って何処かへ飛ばされていった。
こんな小さな葉など、頭にひっついていようが無かろうがイルカに何か影響を与える物では決してない。
果たして、自分がカカシの立場だったらカカシの髪に引っかかる木の葉を取ってやるだろうか。
髪の毛に葉っぱがついていますよ、くらいは言うだろう。
それから。
「別に・・・普通か」
イルカがぼそりと呟くとカカシは不思議そうに小さく首をかしげた。
「何です?」
「いえ、何でもないです・・・」
自分だって、髪に絡まる葉っぱやら、糸くずやら。
気が付いた時には相手が誰であれ取ってやるだろう。
だから、こんな事は何でもない。
落ち着きかけたイルカの心臓はその時再び、ドクリと跳ね上がった。
「すみません。少し、乱れちゃいましたね」
「そう・・・ですか」
カカシの指がイルカの髪を梳くように何度も耳の上の生え際から髪紐へと往復する。
「あの、自分でしますから」
するりとカカシの指先がイルカの耳朶に触れる度に、イルカは体が震えそうになるのを必死で堪えた。
それでも頬が火照って熱を帯びるのはどうしようもない。
これ以上、触れないで欲しい。
「んー、もう少しだから」
イルカの髪を撫でつづけるカカシを前に、イルカは何処を見ればいいのやら分からずに目線を伏せる。
たった数秒の事がひどく長く感じた。
カカシは、こういった態度を改めた方がいいのではないだろうか。
自分ならともかく相手が女性であればカカシに他意が無くても相手は誤解してしまうだろう。
普段は猫背だが背筋を伸ばせばその均整の取れた身体は隠しようも無い。
口布や額充てに隠されていても、切れ長で涼しげな右目と通った鼻梁から顔立ちも整っているのだと知れる。
同じ男である自分でさえこうして至近距離でカカシに対面しているとどうも落ち着かなくなる。
自分が周りにどのように見えているのかカカシはもっと自覚した方がいい。
いらぬいざこざに巻き込まれやしないか心配だ。
「・・・心配だなあ」
「えっ?!」
心を読まれたのかと思った。
顔を上げるとじっと自分を見つめていたカカシと目線がかち合った。
イルカの頭部を覆うようにしていたカカシの手が離れていくのと同時に、微かにカカシの指先がイルカの頬の上を掠めた。
ピクンと肩が揺れるのを今度は止められなかった。
「またね、イルカ先生」
「・・・はい・・」
カカシは何事も無かったようにイルカの脇を通り過ぎて歩いていってしまった。
自分一人が取り乱して、カカシの一挙一動に翻弄されて。
「疲れた・・・・」
最初は教え子の上官として知り合って、当り障りなく接していたはずなのに。
他意は決して無いだろうカカシの行動に振り回されて過剰に意識してしまう自分が恥かしい。
気を取り直すように頭を一振りして、イルカは次の仕事の準備に取り掛かろうとアカデミーへの道を急いだ。






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