side:カカシ


「あぁー!・・・心配だなあー・・・・」
「・・・鬱陶しい奴だな」
身悶えして叫んだと思えば、次の瞬間は肩を落としてみたりとカカシは先程から挙動不審だった。
顔の前に思い切り煙草の煙を吹きかけられても、カカシはそれに頓着せずにぼんやりと宙を見ている。
アスマはアスマで、それ以上カカシに構うことなく器用に煙草の煙で丸い輪を作り続ける。
昼下がりに上忍待機所で時間を潰しているのはこの二人しかいない。
監督任務が主な仕事になる上忍師は、手が空いても里外任務が割り当てられる事は滅多に無い。
まあ、つまりは暇なのだ。
アスマはそんな日々に時々気だるさを感じたりもするのだが、カカシは里内の生活に楽しみを見出したらしい。
「そんなに気になるならさっさと自分のものにしちまえよ」
「ええー・・・。だってぇ」
カカシは煮え切らない態度でズルズルとソファに体を埋めた。
そのカカシの身体におもむろにアスマは手を伸ばす。
途端にパシリと、カカシはアスマの手を叩き落した。
「何すんのよ、髭」
そんなカカシに対してアスマは薄目を開けてクッと笑って見せる。
「まあ、お前はてんでイルカの眼中に無いってこったな」
アスマの言葉に、だらしなくソファに身体を横たえたままカカシは眉間に深く皺を寄せた。
上忍の間ではカカシが人の身体に触れる事、自分の身体を触らせる事を酷く嫌うのは有名なのだ。
そのカカシが人目も憚らずアカデミーの中忍にアプローチをしている事は、瞬く間に外回りの忍の間には上忍から下忍に至るまで知れ渡った。
しかし、内勤の当の中忍には全くその噂は伝わっていないようだ。
「少しでもイルカがお前に興味があるなら、注意深く見てりゃあ自分に対する態度と他人に対する態度の違いなんてすぐに分かるだろうよ」
アスマの発言全てにカカシは一つも反論できない。
ううう、と唸りながらカカシはソファの上で身悶えする。
そこを気色が悪いとアスマに足蹴にされるもカカシは反撃もせずに当の想い人の事を考える。

好きになった理由なんて、思い出せない。
階級の垣根を飛び越えて自分の部下に対するのと同じ笑顔を向けてくれるあの人に、とにかく触れたくて仕方がないのだ。
あの人に会うと、触れたくて触れたくてどうしようもなくなる。
まるでガキのように押さえが効かない。
そして出来れば、自分にも同じように触れて欲しい。
体温が高そうなあの人が自分に触れてくれたらどんな感じがするんだろう。
そう思いながら、イルカが抵抗しない事をいいことにカカシはイルカに手を伸ばす。
そう、イルカは抵抗しないのだ。
少し、身体を硬くして。少し、頬を上気させて。
イルカはカカシの手が遠のくのをじっと待つ。
カカシはイルカに触れたくて手を伸ばすのだが、イルカに受け入れられればそれはそれで不安が募る。
誰にでもそうやってイルカは身体を触れさせるのだろうか。
アカデミーの生徒達ならともかく、少し顔見知りという程度の自分のような間柄の人間にも?
何を考えて自分が身体に触れるのをイルカは許しているのだろう。
髪に触れたり、頬を撫でたり、耳朶をくすぐるという行為は友人としても、同僚としても、上官と部下という間柄でも、ふさわしい物ではないだろうに。
分かって触れさせているのか、全く分かっていないのか。
「多分、分かってないよねえ・・・・」
カカシが好きになったイルカはそんな人だ。
何か理由をつけてカカシの行為を正当化しているか、自分の中でどうにか納得させて折り合いをつけているのだろう。
そんなに難しく考える事など無いのに。
カカシの行為はカカシの想いが素直に現れているだけなのに。
どのように触れればイルカは気付いてくれるのだろう。
どのように触れればイルカにとっての決定打になるのだろう。
くちづけて、抱きしめれば?
さすがのイルカも自分の行為に理由付けなど出来なくなるだろうか。
視線を彷徨わせながら伏せる目と、うっすらと上気した血色の良い頬。
多分、イルカは自分に好意を持ってくれている。
そして、鈍すぎて自分の気持ちに気が付かないあの人を待つのも、いい加減限界に近い。
「んんー・・・」
ガン、と。再びアスマがカカシが寝転ぶソファの足を蹴りつけた。
「今日か、明日・・・。いや、やっぱり、どうしよう・・・・」
気がつけばカカシは待機所に一人取り残されてソファで転げまわっていた。
忍耐強いアスマもさすがに付き合いきれなかったらしい。
胸が一杯で苦しくなり、堪らずにカカシはため息を零した。
こんな姿は部下達には絶対に見せられやしない。
でも人を好きになる気持ちは冷静にコントロールできるものではないのだ。
それを生まれて初めて、身をもってカカシは知った。


二人が付き合い始める少し前の話。









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