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保健室ですやすやとイルカは寝息を立てていた。
イルカが横たわるベッドに腰をかけて、保険医の薬師カブトはじっとイルカの寝顔を覗き込んでいる。
カブトはイルカの髪紐に手をかけパラリと髪を解いてみる。硬そうに見える髪は意外としなやかでサラリと枕の上に流れた。
(うん。結構いい感じだな)
濡れたような黒髪をカブトはもてあそぶ。
運び込まれた時は真っ青だった顔色も今は健康的な肌色に戻りつつある。疲れもありそうだが、単なる寝不足か。
薄く口を開けて寝こけるイルカはあどけなく、物凄く隙だらけだ。
カブトはぽってりとした程よい厚さの唇をそろりと指で撫で、そのまま、すうと首筋を辿る。鎖骨まで指を降ろしていき、おや、とカブトは手を止めた。
鎖骨の少し上に、小さな赤い花びらが散っている。鬱血したそこは誰かの所有印か。
(へえ・・・)
性的な匂いを全く感じさせない、初心な印象を与えるその顔で、誰かと激しく肌を合わせたりするのだろうか。
(面白いな)
制服のシャツのボタンを上から順に外していく。軽くはだけさせてみると、イルカの胸元には鎖骨よりも更に派手に赤い花弁が舞っている。
(うわ。この子の相手、しつこそうだな)
するりと手を伸ばしてイルカの腹筋を撫で上げ、まだ柔らかい乳首を押し潰すように揉んでみると、イルカの口からは穏やかな寝息に混じり甘い吐息が漏れ出す。
意識が無いにも関わらずこの感度の良さ。カブトは思わずニヤリとする。
カブトは躊躇い無くイルカのズボンのベルトを外し、その下のボタンも大胆に外す。
「う・・ん・・・。」
ファスナーに手をかけようとした時、イルカが軽く身じろぎした。
カブトは軽く舌打ちをしてシーツをふわりとイルカの身体に被せた。
ゆっくりとイルカが瞼を開く。
「・・・・・」
しばし無言でイルカはぐるりと周囲に目を走らせ、視界にカブトを捉えた。
やっと此処がどこであるかイルカは思い出した。同級生が自分を保健室まで連れてきてくれた。
そのあとは昨夜ほとんど寝ていない事もあり、気を失うように眠り込んでしまったのだ。
「あ・・・すみません。俺、すっかり寝ちゃって・・・」
再び落ちかかる瞼と戦いつつ、ぼんやりとしたままイルカは半身を起こそうとする。
「いいんだよ。気分はどう?」
ベッドの脇に立ちカブトは穏やかに微笑む。
イルカは身体の上のシーツを退けようとして一気に目が醒めた。制服のシャツのボタンが外され、胸元が露になっている。そこには昨夜の情交の跡が色濃く残っていて、どう見ても虫刺されや、ぶつけて痣が出来たようには見えない。
(ど、どうしよう、見られたっ・・・!)
イルカは反射的にカブトを見やる。キスマークを見られたことに動揺して、何故自分が半裸になっているのかという事に思い至らないイルカであった。
目に見えて取り乱し、こちらの様子を伺うイルカにおや、とカブトは内心首を傾げた。
(やることやってるんだろうに、痕を見られた位で何をそんなに慌てる?恥ずかしかったのか?いや、この焦りようは・・・何かおかしいな)
シーツで身体を隠し固まるイルカに向けてその表情を探りながらカブトは口を開く。
「勝手に脱がそうとして、悪かったね・・・。少しでも身体を楽にしてあげようと思って。・・・見るつもりは無かったんだけど・・・」
イルカは息をのみカブトの言葉を待つ。せっかく戻った顔色は再びうっすらと青ざめている。
ほぼ確信した上でカブトは揺さぶりをかける。
「ひどく、身体が辛そうだけど・・・。君はひょっとしたら誰かに乱暴されたんじゃないのかな」
軽くカマをかけてみたが、イルカはその言葉に大きく身体を揺らした。
面白いくらいに自分の内面をさらけ出すイルカにカブトは大笑いしたくなった。
(やっぱりね。よしよし。自分から足開いてアンアン言う子なんかつまらないからね)
半身を起こしベッドの上で青ざめているイルカのすぐ横にカブトは腰を下ろし、そっとイルカの頭を引き寄せた。
「怖かっただろうね・・・。辛かったろう?君が悪いんじゃない。可哀相に・・・」
幾度も髪を梳いてやるうちに、イルカは震えながらカブトの胸に顔を埋めてきた。
「せ・・・先生っ・・!」
イルカはぐすぐすと鼻をすすり上げる。
(この子、ちょろい・・・)
カブトの気分はますます高揚する。
ちょっと待って、とカブトは席を外し、再び現れた時は手にマグカップを持っていた。
「はい、気分を落ち着かせる香草を煎じてるんだ。砂糖を入れたから飲み易いと思うよ」
「あ、ありがとうございます」
イルカは素直にマグを受け取りコクリと口に含む。
カブトから受け取った茶褐色の液体は口に含むと少しとろみがあり、スッと鼻に抜ける爽快感と共にほのかに甘く、身体に染み渡るようだった。量もそれほど多くなく、イルカは一息に飲み干した。
「少しは落ち着いた?」
「はい」
空のマグカップをカブトは受け取った。
「さてと、身体を診てあげるよ。ろくな手当てもしてないんだろう?」
「・・手当て」
「安心して。それ専用の鎮痛剤もあるんだよ。聞いた事があるだろうけど、戦場に実習に出て生徒が強姦されるという話は実際にあるんだ。許し難い事に、戦場ですらないこの校舎内でも下級生が上級生から性的暴行を受ける事件が起こる。何度かそんな生徒達を手当てした。・・・酷い話だよ」
カブトの顔にはやり切れない憤りが浮かんでいる(ようにイルカには見えた)。
そのカブトの顔にふと悲しげな色が満ちた。
「君に乱暴を働いたのは僕と同じ男だ。君は僕に触れられるのはやっぱり怖いかな。・・・僕を信用してはもらえないだろうか」
「そんな・・・先生、お、お願いします」
涙でウルウルと瞳を揺らしイルカは縋り付いてきた。この時点でイルカはすっかりカブトの事を信じ切ってしまった。
「ありがとう、信用してくれるんだね。身体、楽にしてあげるからね」
(この子、簡単すぎるよ)
カブトの微笑みは隠しようもなく真っ黒に染まっていた。
例のごとくイルカはカブトの黒い笑いに全く気付いていない。更に昨日薬を盛られたばかりだというのに全く学習していない。
イルカが口にした茶褐色の液体は・・・・・。