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一方カカシのイルカ捜索は後手後手に回っていた。
旅館に戻りサル三匹を大部屋に投げ込んですぐに近場の外湯を探したがイルカの物とみられる浴衣はあれどもイルカの姿は見えない。
この時点でイルカは非常事態に陥っているという事が容易に想像できた。
すぐさまとって返してカカシは旅館内を探索した。
しかし、
「イルカは?」
「保健のせんせに預けたぞ、ウン」
「イルカは?!」
「大蛇丸教頭に預けましたよ」
「イルカはっ?!!」
「うふふ。イビキ先生に預けたわよ」
といった調子で旅館内をカカシはぐるぐるとたらい回しにされていた。
それにしてもまあ、よくよくイルカは人に預けられるものだ。いったいどういう状況になっているのか。
いつもの飄々とした様子はすっかり形を潜め、カカシは荒々しく廊下を踏みしめ足早に次の目的地に向かう。
「イビキ先生、失礼します!」
ノックもせずにドアを開け内部屋の襖をぐわらと開きカカシは固まった。
部屋の中には布団の上に仰向けになり裸に剥かれたイルカが全身を紅潮させ、大量に発汗しながらウンウンと唸っている。
股間には何故かタオルが覆うように被せられていたが、そのタオルで隠し切れないほどにイルカの性器は勃起している。
そのイルカの枕元に、気難しい顔をしてイビキは正座し腕組みをしている。
イビキの隣には水を張った洗面器が置いてある。
イルカとイビキとタオルと洗面器。さっぱり状況が飲み込めない。
「・・・・何事ですか?」
襖を開けた時の勢いは瞬殺され、カカシは呆気に取られつつ間の抜けた声を発した。
「見られてしまっては仕方が無い。イルカは・・・・」
目を見開き入り口で固まったままのカカシを一瞥するとイビキは重々しく口を開いた。
時は少しばかり遡る。
大蛇丸にイルカを押し付けられたイビキは苦しそうに浅い呼吸を繰り返すイルカを取りあえず自室に連れ帰った。
敷き布団の上にイルカを横たえさせるが大蛇丸の言葉が脳内を駆け巡りイビキの全身にいやな汗が滲んでくる。
一発抜いてくださる?
確かに大蛇丸はそう言ったのだ。
勃起治療とは具体的にどういう事をするのか見当もつかないが、目の前のイルカはガチガチに性器を勃起させ悶絶している。物凄く苦しそうだ。
「イ、イルカ、今楽にしてやる」
イビキは覚悟を決めて恐々とイルカのペニスに手を伸ばす。
固く張り詰めて真上を向く陰茎をイビキの大きな掌がぎゅうと握りしめるとイルカが悲鳴を上げた。
「イ、イタッ・・・!!」
「痛いだとっ?!」
まるで火傷したかのようにイビキは素早く手を引っ込めた。
局部に触れなければ抜く事も不可能だろうに、局部に触れればイルカは痛いという。いったいどうしたらいいのだ。
イビキはほとほと困り果ててしまった。
カンカンに勃起しながらも長時間射精を塞き止められた状態のイルカは全身を紅潮させてしっとりと汗を滲ませている。
成長過程の未成熟な身体は中性的で思わずゴクリと生唾を飲み込んだイビキはハッと我に返る。
自分の生徒に対して妙〜な気分になりそうになり、イビキはいかんいかんと頭を振った。
(イルカがこんなにも苦しんでいるというのに、俺は!!)
ウンウンと唸るイルカの枕もとでイビキはしばらく邪念を振り払うように頭を振りつづけた。
「あ、熱い・・・」
「熱いっ?!!」
イルカの一挙一動にイビキは大袈裟なまでに巨体を揺らす。イルカが呻き声と共にポツリと漏らした言葉に文字通りイビキは飛び上がった。
そう言われれば確かにイルカは暑そうだ。いまやイルカは全身からたらたらと発汗し辛そうに眉根を寄せている。
早急に身体を冷やしてやらねばならないだろう。
「すぐに楽にしてやるぞ」
イビキは水を張った洗面器にタオルを用意し、濡れタオルをふんわりと被せるようにイルカのペニスの上に乗せる。
どうせなら額に濡れタオルを乗せれば良さそうなものだが、混乱もピークに達していたイビキの心はイルカの股間の事が大部分を占めており真っ先にイビキは股間を冷やしにかかったのだ。
「お前がこれほどに苦しんでいるというのに、何の役にも立てずっ・・・。俺は、湯治部顧問失格だっ!!」
イビキは膝の上で悔しそうに拳を握る。
ピクンと身体を震わせはしたもののイルカは黙って濡れタオルを股間に乗せたままにしていた。
「俺にしてやれるのはこれだけだ。不甲斐ない顧問で、イルカ、すまない・・・・」
それからイビキは温まるタオルを甲斐甲斐しく取り替えつづけた。
「そういう訳でイルカは今、勃起不全の治療中なのだ。この事は他言無用に願う」
「・・・はあ」
イビキの説明を聞き終わったカカシはイルカの状態を観察する。そしてその次のカカシの行動は素早かった。
「分かりました。イビキ先生、ちょっと風呂借りますね」
「カカシ先生?」
「まあ、ちょっと待ってて下さい」
イビキに有無も言わせずにカカシはイルカを抱き上げると部屋に備え付けの家族風呂に向かった。
カカシは意識が朦朧としているイルカを洗い場の上に横たわらせる。
ふわりとカカシの鼻先を甘い匂いが掠める。
「薬盛られちゃったかー・・・」
低めの温度に設定してシャワーヘッドをイルカの身体に向ける。
ザアッと撫でるようにイルカの全身を濡らしてやれば、冷気に宥められたのか小さく息を吐きイルカがうっすらと目を開けた。
自分の衣服が濡れるのも構わずにカカシはイルカを胸に抱き起こす。
「イルカ」
「・・・カカ、シ・・」
イルカはまだとろりとした焦点が合わない目をしていたがカカシの顔をゆっくり見上げる。
「薬、飲まされちゃったの?」
「・・・ちがう・・」
ふる、と力無くイルカは首を振る。
ということは直接表皮や粘膜に塗られたのか。
イルカの体から強く立ち上る甘ったるい匂いにカカシも納得する。
「じゃあ、ざっと流しちゃうからね」
カカシの腕の中で横抱きにされながらイルカは大人しくしている。
カカシはボディーソープを手にとるとやわやわとイルカの勃起したペニスをなで、膨らんだ陰嚢、その後ろの窄まりにまで指先を這わせる。緩やかな水流に一度泡立った石鹸は洗い流されていく。
「ん・・、んぅ」
夢と現をまだ行ったり来たりしながらも柔らかいお湯が素肌を滑り落ちる刺激にイルカは反応を返した。
カカシが様子を見ながらイルカの性器を上下に手で擦り立てると、辛そうにイルカは顔を顰める。
イルカのペニスは長く塞き止められたまま、これはもう腫れているとしか言いように無いほどに真っ赤になっていた。
「こりゃー、痛いよねえ」
カカシはイルカを再び横たわらせイルカの足の間に身体を入れるとそのまま頭を落とす。
口内にイルカの雄を引き入れるとカカシは舌の平と口内の粘膜を使いゆっくりとそのままイルカの性器を扱き始める。
イルカの陰茎は限界まで皮膚が張り詰めてひどく熱を持っている。
激しい口淫は痛みを誘うだけだ。カカシは単調で穏やかな動きを辛抱強く繰り返す。
「ふ、あ・・・」
イルカが甘い声を漏らすと同時に塞き止められていた精が先端から前触れも無くドクドクと溢れ出した。
「あ、あぁ・・・・」
カカシは口をイルカのペニスから引き離すとそっと竿を捧げ持ちながら長い吐精が終わるのを待つ。
イルカの呼吸が深く落ち着いたものになった事を確認するとカカシはざっとイルカの下肢の汚れを洗い流してやった。
「イルカ、大丈夫?」
「・・・カカシ・・?」
イルカのぼやけた瞳の焦点が徐々に合っていく。
「そう。イルカのカカシです〜。助けるのが遅くなってごめんね」
体表に付着した媚薬は洗い流し、粘膜に直接塗り込められた分は仕方が無いが尿道から体内に入った分もあらかた排出させた。
まだ媚薬は抜けきらないイルカはぼんやりとカカシを見つめたままでいた。
そのあどけない様子に思わず瞼や鼻にキスを落としてもイルカは嫌がる素振りを見せない。
顔を見れば罵声を浴びせて噛み付いてくるイルカが、普段と打って変って大人しくなってしまった様子にカカシは目を細める。
「据え膳を食わなかったイビキ先生に感謝をすべきか否か、ねぇ・・・」
イビキがイルカに手を出していればもっと早くにイルカは射精させられて苦しみから解放されていたのだが。
それを言えばカカシにとって今この状況も据え膳には変わりないが隣にイビキを待たせている。
「今は我慢だね〜」
カカシはイルカの濡れた体をタオルで拭いてやるとよいしょとイルカを抱き抱える。イルカは全くの無抵抗でカカシに抱き抱えられてコトリと頭をカカシの胸元に預けさえする。
「普段もこれくらい大人しいと色々楽なのにねぇ・・・」
自然とカカシの口元には笑みが浮かんだ。
カカシはイルカを抱えたまま家族風呂からイビキが待っている和室へ戻った。
「大丈夫。容体は落ち着きましたよ」
いかがわしい薬を盛られて苦しんでいただけなのだが、何故か勃起不全の治療だと思いこんでいるイビキにカカシは付き合ってやる。
「そ、そうか・・・」
枕もとで正座したままの姿勢でいたイビキはホッとした様子で身体の力を抜いた。
「あと、たくさん汗かいてたみたいなので水を飲ませてあげれば大丈夫じゃないですか?」
「うむ、分かった」
イルカはカカシに抱き抱えられたままイビキからペットボトルを受け取ると一気に半分ほど飲み干した。
今度こそ一息ついたといわんばかりにふうとイルカは大きく息を吐き出す。
「大丈夫?」
カカシはイルカの腰の辺りを子供をあやすようにリズムをつけてトントンと叩いている。
その振動が気持ち良いのかイルカはカカシに大人しく体を預けたままコックリ頷いた。
その様子を見てカカシも微笑む。
「じゃあイルカ、今夜はずっとイビキ先生と一緒に居るんだよ。俺行くね」
そう言ってニッコリ微笑んだカカシの顔面に突然枕がヒットした。
その勢いは大変弱々しいものでカカシは痛くも痒くもなかったのだが予想もしない出来事を回避できずにカカシはまともに顔面で枕を受け止める。
枕がポロリと顔面から離れると、カカシの視界には顔を再び紅潮させプルプルと震えているイルカが目に飛び込んできた。
「・・・えっ・・・?」
「カッ・・!!カカシの馬鹿やろーッ!!!二度とその面見せんなああっ!!!」
何故か突然に、イルカは激怒していた。
いまだ震える手で手当たり次第に物を掴んではイルカは至近距離からカカシに投げつけようとする。
「ちょ、待って。イルカ?!」
「イルカ、落ち着け!」
大人二人が慌てふためく中、イルカはカカシへの攻撃の手を休めない。イルカはカカシの腕の中からスルリと抜け出すと物を引っ掴んではカカシに投げつける。しかし体調が回復しないイルカの攻撃は全てカカシへ届く前に空しく畳の上にぽとりと落ちる。
それが枕やら浴衣の腰紐である内はまだ良かったが、イルカの手が湯のみやらイビキの脇に置かれた水の入った洗面器に及ぶと部屋に深刻な被害を及ぼし始めた。
「うおっ!!」
洗面器をカカシに投げつけようとしてその重さを支えきれず、イルカはイビキに中身の水を思い切り浴びせる。湯飲みをカカシに投げつけようとしてそれは床の間に着地し二つに割れた。テーブルの上の昆布茶はカカシに到達する前に蓋が外れて中身をイルカ自身がかぶる始末。
「カカシの馬鹿野郎っ!!」
威勢の良さだけは取り戻してはいたが、まだヘロヘロと力の入らない状態のイルカはそれでも部屋を一瞬にして地獄絵図に変える予想外の働きを見せた。
布団も畳もびしょびしょでその上にまんべんなく昆布茶が撒かれている。この部屋で寝るのは勘弁して欲しいといった感じだ。
「カカシ先生!ここは俺に任せてくれ!!」
「えっ・・。あー、はい・・・・」
イルカのヘロヘロながらも鬼気迫る様子に二人とも気圧されていたのだが、カカシが居る事でイルカの興奮がどんどん高まっているのは確かだった。
イビキの言葉ににカカシは後ろ髪を引かれながらも言う通り従う。
チラリと部屋を振り返るとイビキに羽交い絞めにされたイルカは身体の自由を奪われてもなおキッとカカシを睨みつけたままカカシに罵声を浴びせている。興奮のあまりイルカは涙を浮かべさえしていた。まったくもっていつものイルカに逆戻りだ。
はあ、とカカシは長い溜め息をつく。
イビキが少し邪魔くさかったが、さっきまで珍しく、というかイルカと知り合って多分初めての甘い空気が漂っていたのに。
素直に自分に身体を預けてくるイルカはこの上なく可愛らしかった。
何があそこまでイルカを激昂させたのか、カカシは皆目見当がつかなかった。
「はははっ!!いい様だなあ、カカシ」
「・・・ありがとね」
部屋に戻れば酔いの所為でいつもよりテンションが高めになったアスマと、ガイは酔いつぶれていたが、一升瓶を抱え込んだ紅が未だに酒盛りを続けていた。
自分の姿を見下ろしてみると水が滴るほどではないがぐっしょりと衣服は水を吸い込み色を変えている。
イルカの介抱のために服を着たままでシャワーを浴びたカカシだった。
カカシは身体に纏わり付くシャツやらパンツやら躊躇せずに脱ぎ捨てると備え付けの浴衣に着替えた。
「ちょっとお。レディの前で見苦しいもん見せんじゃないわよ!!」
胡座の間に一升瓶を抱え込んだ紅が文句を言う。
「はいはい。すみませんね」
文句を言う紅の前にカカシが湯飲みを差し出すとそれでも紅は股座の間に抱えているお宝を気前良くカカシに分けてやる。紅の真紅の下着はカカシの前に惜しげも無く晒される。
「姐さん。レディのパンツが見えてますよ・・・・」
「んー。まあ減るもんじゃないしいいわよ別に!!」
がははと紅が豪快に笑うその隣でアスマは一瞬複雑そうな顔をした。黙っていれば人目を引く美人なのに紅は中身とのギャップがありすぎる。こんな男前な迫力美人を口説き続けるアスマも物好きとしか言いようが無い。
「アスマも苦労するねえ」
「ほっとけ。ところでお前、まさか服も脱がねえで風呂にでも入ってきたのか」
ガハハハ!!とアスマと紅が同時に笑い出す。
そんな男前二人を目の前に案外お似合いじゃないとカカシは思った。
「うん、そう」
まさにその通りなのでカカシは素直にアスマの言葉を肯定する。それから自分がいかにイルカのために苦労して午後一杯西に東に駆けずり回ったのかカカシはアスマと紅に話して聞かせた。
「なーんか、俺疲れた。すっごく振り回されちゃった」
カカシの言葉にアスマと紅は顔を見合わせる。
「感謝されるならともかくさ〜。何でイルカが怒ってんのかさっぱりわかんないし」
俺疲れちゃった、とカカシは再びガクリと項垂れる。
イルカを救出すべく奔走しつづけたカカシの努力は報われはしたが、当の本人には喜ばれなかった。
その事が思いがけなくカカシの気持ちを落ち込ませていた。
「カカシって・・・」
「え?」
黙り込んでいた紅が口を開く。
「カカシって、よっっっぽどイルカちゃんに惚れてるのねえ」
「・・・・え・・・?」
カカシは言葉を失った。
「だろー?傍から聞いてりゃ誰だって気が付くってもんだぜ。お前がイルカに振り回されるのはお前がイルカに惚れてるからだろ」
アスマの声がひどく遠くに聞こえた。
「恋しちゃってるのねえ、カカシ。可愛いわねえ」
ゴリゴリと力強く頭部を撫で擦ってくる紅に全く抵抗できずにカカシは口も半開きで呆けている。
只ならぬ様子のカカシを前にアスマと紅はニヤリとそれぞれ笑みを浮かべる。面白くて仕方がないといった顔だ。
カカシが無言で湯飲みをテーブルの上にコトリと置く。
カカシが無言で立ち上がる。
カカシが無言でアスマと紅に視線を固定させたまま後ずさっていく。
室内は一切の音が無く静かだった。
紅の言葉をもう一度、おっかなびっくりカカシは反芻してみた。
イルカに、惚れている。
カカシの脳裏に先程の頼りなげに自分に縋るイルカが浮かんだ。
その途端、
「・・・・っ!!」
カカシの頬が瞬時に熱を持つ。
おお、とアスマと紅が目を見開いた。それほどにカカシの顔色の変化は激しいものだった。
鏡を見なくても耳や首筋まで真っ赤になっている事がカカシ自身にも分かる。
よろりと一歩。
カカシは前方によろめくが、そのまま堪える。
後ろ手に襖を確認するとカカシはガタガタと震わせながら襖を開く。
アスマと紅を見据えたままカカシは部屋を後ろ向きで出る。
ガタガタと再び音を立てながら襖がぎこちなく閉められる。
カカシはとうとう一言も発する事なく襖の向こうへと姿を消した。
「お・・・」
アスマが漏らした声が呼び水になる。
「面白れえーーーっ!!!!」
「アーッハハハ!!!もう、最高ーーー!!」
二人の馬鹿笑いは室内に留まらず廊下にまでしばらくの間響き続けた。
カカシがイルカへの想いを自覚した瞬間であった。