好きです。愛しています。
耳元で囁かれる睦言はじりじりとイルカの脳を焼いていく。
カカシはあれから良く笑うようになった。
「俺も、俺もです。カカシせんせ・・・・」
ずるりと身体の中心を押し開く肉にイルカは背を逸らせて喘いだ。
穏やかな律動に揺られて思考がどんどんと削がれていく。
「あ、あ・・・・」
最奥まで埋め込まれたカカシの昂ぶりに押し出されるように、イルカは静かに白濁の蜜を柔らかい肉の括れから吐き出した。
カカシに貫かれて気を失うように眠りに落ち、カカシに身体を開かれて眠りから呼び戻される。その繰り返し。
繋ぎ止められた小さな箱の中で、イルカの生活の中心はカカシとなった。
今この時だけが全て。
だからどうか、一分でも一秒でも長く。
後から思えば。
そう願ったのは、この時間が永遠ではないと初めから分かっていたからだ。
自分に覆い被さるカカシの頭を抱き込めば、カカシは素直にイルカの胸元に甘えた仕草で銀髪を擦りつける。
「カカシ先生」
名前を呼べばカカシは体の全てが蕩けてしまうような深い口付けをイルカにくれる。
満ち足りた微笑を浮かべるカカシは幸せそうだった。


自分達は、いや自分は、間違えてしまった。


「カカシ先生・・・・」
ごめんなさい。
カカシの頬に触れる自分の手は肉も薄くなり、見るからに弱々しい。
少しでも長く、そう思っても身体の限界は近付いていた。
この場所は暖かいけれど、俺達が辿り着くべき場所はここじゃない。
これ以上悲しい顔をさせたくなかっただけなのに。カカシはまた泣くだろう。
感情の起伏が激しい自分よりもよっぽどカカシは泣き虫だ。あれほどに強くて、格好が良くて、皆の羨望の的になる人なのに。
弱い内面を自分に晒してくれた事が嬉しい。カカシへの愛しさは日に日に募っていく。
この小さな空間の中で、ずっと二人きりでいられたらよかったのだけれど。
「カカシ先生、ごめんなさい・・・・」
小さく呟かれたイルカの言葉に、カカシはまるで長い間かかっていた魔法が解けたというような表情を見せた。
不安に思わないで。大丈夫。
自分達はきっとやり直せる。
血の気の引いた、陶器のように青みがかったカカシの頬を暖めるようにイルカは両手で覆う。
自分は今笑えているだろうか。
頭上の小窓から外を仰向けのまま眺めれば、ちらちらと最後の粉雪が舞っていた。
この部屋で過ごして三ヶ月が経とうとしていた。もうすぐ春がくる。
「イルカ先生っ・・・」
カカシが青い顔のままイルカを覗き込んでくる。
「大丈夫・・・・」
心配しないで。大丈夫。
ここから二人で外に出ましょう。あなたの事は俺が守りますから。
カカシに伝えたいのに、最初の一言以降、イルカの想いは声にならない。
ひどく体がだるくて意識が地中に引き摺られるようだ。頼むから、もう少しだけ。
「イルカ先生!!」
ああ、やっぱり。カカシは自分よりも泣き虫だ。
ぽたぽたと光る雫がイルカの頬を濡らす。
「これから、は・・・・」



今更なんですけど。これからは俺達、もっとたくさん話をしましょう。
本当は最初に色んな話をしなければいけなかったんですね。
でも、俺も怖かったんですよ。
初めての感情に混乱して、あなたの事が誰よりも怖かった。
そして同じくらいに強く、今は誰よりもあなたが愛しいと思います。

カカシが必死にイルカに向かって叫んでいる。
でもその音はひどく遠くてイルカの耳は拾う事が出来ない。
視界が灰色がかった砂嵐のようになり、やがては完全な闇に飲み込まれた。
イルカの意識は途切れた。






次に意識を取り戻した時。
イルカの視界には見慣れたカカシの寝室の天井ではなく、目を焼くほどの真っ白な病室の天井が飛び込んできた。
それに別段イルカは驚きもしなかったが、ベッドサイドに佇む人物にはドキリと心臓が跳ねた。
「イルカ・・・」
気遣わしげに、かつての恋人がイルカに声をかける。
イルカは身体を起こそうとしたがそれを彼女は制する。
「点滴が終わるまで静かにしていて。酷い貧血と栄養失調、あと全身の筋力が著しく低下している。以前の生活に戻るには少し時間がかかるわ・・・・」
特別上忍で優秀な医療忍であるかつての恋人は淡々と事実を述べていく。
鎖に繋がれた状態では運動量もたかが知れている。あの空間の中では空腹も覚えず、ろくに食事も取っていなかった。
ろくな食事を取らなかったという点ではカカシだって似たようなものだったはずだ。
カカシは、今何処にいるのか。
聡いかつての恋人はイルカが口を開く前に答えた。
「はたけカカシは、もう・・・里には居ないわ」
瞬時に口の中が干上がり、舌の根が固まる。イルカは言葉を発する事が出来ない。
「はたけ上忍はきっと、もう里には帰れないでしょう・・・・」
言葉を失ったイルカをかつての恋人は痛ましげに見つめ続けた。


聞けばイルカが病院に運び込まれてまだ三日しか経っていないという。
その数日の間にカカシはイルカから遠く離れてしまった。
たった数日の間に、二人が濃密に睦み合った冬の季節は過ぎ去り、里にはすっかり春が訪れていた。











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