いと つみぶかし  3




イルカの奇妙な行動はその晩にも起こった。
カカシが横たわるベッドにイルカは有無を言わせずに潜り込んでくる。
「・・・・布団、他に無いの?」
「え?ありますけど」
それが何か?と不思議そうにイルカはカカシを見る。
じゃあ、どうしてベッドに潜り込んでくる?
大の男二人がシングルベッドに寝るなんてかなり厳しい。いや、ダブルだろうがキングベッドだろうが何故男と共寝しなければならない。
イルカに対する疑問やら文句やらぐるぐる頭の中で渦巻くカカシに構わず、またもや昨夜のように自分の腕の中に抱き込むと、イルカは額をカカシの頬に擦り付けてくる。
「大丈夫。すぐに動けるようになりますから。安心して。俺が傍にいますから」
何を言ってるんだ。当たり前だ。ただのチャクラ切れだ。
威張れた話じゃないが、過去に何度もこんな目には遭っている。
慰めているつもりなのか。
イルカはカカシをしっかりと胸の中に抱き込むと、あちこちに跳ねている銀髪に鼻先を埋めてきた。
(・・ネコみたい・・・)
鬱陶しいが、身体が動かないのだから仕方がない。
仰向けに横たわるカカシにイルカは横向きにしがみ付くようにしていつの間にか規則正しく寝息を立て始めた。
看病するにしてもイルカのこの行動は絶対におかしい。
イルカの奇行を問い質そうにも、当のイルカはすでに夢の中だ。
(・・・身体、動かないし・・)
だから、仕方がない。
カカシは身体の力を抜くと静かに目を閉じた。


カカシがイルカのアパートに連れ込まれた日にイルカは火影にカカシを保護した事を連絡したということだった。火影からはそのまま回復まで看護にあたるように達しがあったらしい。実質、火影公認のもと、カカシはイルカに囲われる事になったのだ。
イルカは実に甲斐甲斐しくカカシの世話をした。
朝、食事の支度をしてカカシに食べさせ、昼はアカデミーから一度アパートに戻り、またカカシの食事の世話をする。定時に仕事を切り上げ、帰ってくると夕飯の支度をする。
カカシは壁伝いで移動しトイレに行くことも自分で食事を取る事もできるようになったが、風呂に入るにはまだ助けが要った。

「・・・口でしてよ」
そう言われればイルカは躊躇わずにカカシの性器を口に含む。
その日によって手であったり、口であったりと、カカシは風呂場でイルカに毎日のように奉仕させた。特に理由は無い。
風呂場で初めてイルカから手淫を受けた日から風呂場へ足を踏み入れれば条件反射のようにイルカはカカシの処理に手を貸し、カカシも当然のようにそれを受け入れる。
その最中、常に人のいい笑顔を絶やさないイルカの仮面が剥がれる一瞬がある。
「んっ・・!イルカせんせ・・・」
無心に奉仕するイルカは名前を呼ばれると熱く潤んだ瞳でカカシを見上げてくる。
まるでカカシの事が愛しくて堪らないとでもいうように。
名前を呼べば呼ぶほどに、イルカの顔は蕩けてしまいそうに目が潤み頬も上気する。
「イルカ・・イルカ・・・」
水分を含んで艶やかに光る黒髪に指を差し入れてイルカの頭部をカカシは更に自分の股間に押し付ける。
イルカは強請られるままに喉の奥深くにカカシを受け入れて、頬の内側の粘膜、舌全体を使ってカカシのペニスを締め上げてくる。
「・・っ・・あぁ・・!」
イルカの口内に根元まで押し込んでカカシは果てた。精の放出が収まるまでイルカはカカシの性器を口全体で吸い上げる。
「くっ・・・は・・」
達したばかりで敏感な先端を執拗に吸い上げられ、カカシの内腿はイルカの身体を挟み込んで締め付ける。ちゅっと音を立てて亀頭に口付けて、イルカはようやく顔を起こした。
「カカシ先生、気持ち良かったですか?」
「・・・うん」
すでにイルカは普段の人の良い笑顔に戻っている。
先ほどの潤んだ瞳や、うっすらと紅潮した頬、その全てがまるで幻だったかのように。
奉仕が終わればその後のイルカは淡々とカカシの全身を洗い清め、何事も無かったかのように風呂場での介助に専念する。

自分の性器を貪る最中、名前を呼ばれた時のイルカのあの顔。
イルカ自身は気付いているのだろうか。
ベッドに仰向けに横たわるカカシの横で今イルカは乾いた洗濯物を片付けている。俯いた顔にはほどかれた黒髪がかかり、今の表情は黒髪の向こうへ隠されている。
「ねえ、イルカ先生」
「はい?」
「もう一回、口でして・・・・」
風呂場以外で求めるのは初めてのことだった。
洗濯物をたたみ終わり、イルカはゆっくりと顔をあげる。表情はいつもと変わらずに穏やかだ。
「わかりました」
ギシッとスプリングを軋ませてイルカはベッドに乗り上がる。
カカシの浴衣の裾を左右に開くと、カカシの足の間にイルカはうずくまる。下着を少しずらして灰色の茂みの中からまだ柔らかいカカシの性器を引き摺り出す。
「・・・んん・・」
カカシの茂みに鼻先を押し付けるようにしてイルカは口淫を始める。最初は易々と収まっていたカカシのペニスは、硬度を増すたびにイルカの口内を内側から押し広げるように圧迫する。
上目遣いでカカシの反応を見ながらイルカは舌先をあちらこちらに這わせる。鈴口を舌先と尖らせて抉ればカカシの口からも堪えきれずに切なげに声が漏れ出す。
「あっ・・く・・イルカせんせ・・」
その瞬間、イルカの別の顔が姿を現した。
イルカの名前を呼んで強請ればそれだけでイルカの瞳には熱が揺らめいて、頬には赤味が差す。
「もっとして。イルカ先生・・・」
うっとりと、イルカはカカシの言葉に従順に応える。
硬くそそり立ったカカシのペニスを根元から先端へ向けてイルカは何度も愛しげに舐めあげた。裏筋を辿り、雁の括れをぐるりとなぞりやがて喉の奥を広げてカカシをゆっくりと熱い口内へ受け入れていく。
舌と口内の粘膜でカカシのペニスを包み込むとイルカは激しく頭を上下させる。口の中から抜けでそうになる瞬間にはきつく先端を吸い上げ、深く受け入れる際には喉の奥を限界まで広げてカカシを緩急つけて締め上げる。
何処で身に付けたのか。そんな無粋な事をカカシは聞かないが、巧みなイルカの口淫にカカシは今日二度目の絶頂をあっけなく迎えた。
うっすらと額に汗を浮かべてイルカは身を起こす。口の端に残るカカシの精をイルカは無意識に舌先でぺろりと嘗め取る。達したばかりだというのにイルカの赤い舌の動きはカカシの腰に響いた。
「・・・イルカ先生。俺の事好き?」
考える前に言葉は口からついで出た。
カカシの足の間に足を崩し座り込んでいたイルカは、にこりとカカシに笑う。
「もちろん、好きです。あなたは大切な人です」
イルカの言葉はストンとカカシの胸の中に落ち着いた。
なんだ。そうだったんだ。
そう思えばイルカの今までの行動も可愛いと思えてくる。
「カカシ先生。あの・・・俺、あなたの役に立ってますか・・・」
イルカの突然の問いかけにカカシはポカンとしてしまった。
カカシに有無を言わせずにこの部屋に連れてきて、カカシに構わずに恐ろしいほどのマイペースさで今まで世話を焼いてきたのに。
今更カカシの感情や、意向を気にするイルカがカカシは少し可笑しかった。
それでもカカシはそう思う事は口にしなかった。
「そりゃ、もう。イルカ先生が傍にいてくれて良かった」
カカシの言葉はイルカに激的な変化をもたらした。
ぼうっと、熱に浮かされたかのように顔が真っ赤になったと思ったら、その赤味が落ち着いた頃には瞳は熱に潤み、何とも満たされた嬉しそうな表情をカカシに向けてくる。
それは名前を呼ばれる時のイルカの顔に限りなく近い。
こんな顔、自分以外の誰にも見せたくない。
「イルカ先生。俺、まだ動けないんだ。キスしてよ」
弱々しくイルカに手を伸ばすとイルカはしっかりとカカシの腕を取り、カカシの身体の上に覆い被さってきた。
カカシは初めてイルカとキスをした。
イルカの厚めの唇は見た目通り柔らかく、イルカの口内を探るとカカシの放った精がまだ残っており舌の上に苦味が広がる。カカシは構わずイルカの舌と唾液を吸い上げる。
まだ力の戻らない、震える両腕でカカシは精一杯イルカを抱きしめる。
何か暖かい物に急激に胸が満たされる思いがする。
好きだというのなら、その気持ちに応えてみるのもいいかもしれない。
里に常駐する理由にも充分なるだろう。自分を求めてくれる可愛い恋人が居るのなら。
ようやく唇を離すと二人の間を銀の糸が繋ぐ。カカシは僅かに顔を動かしてイルカの唇から引く糸を嘗め取る。
「イルカ・・・」
イルカは切なげに眉根を寄せてもう一度カカシに口付けてきた。
何度も何度も、しばらくの間カカシとイルカは唇を合わせた。
その夜もいつものようにイルカはカカシを腕の中に抱き込むと決まり事のようになった言葉を紡ぐ。
「大丈夫です。傍にいますから。安心して・・・・」
カカシが僅かに身じろいでイルカに向い合うようにしてイルカの胸元に頬を擦りつけると、イルカはカカシの銀髪に啄ばむようなキスを落とす。
一度イルカを受け入れてしまうと、外に出ることも叶わぬ閉塞的な空間だった寝室が何とも心地の良い場所に変わった。
我ながら現金なことだと内心で一人ごちると、カカシはイルカの腕の中で安らかな眠りについた。



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